横浜で宿を始めるなら?民泊と簡易宿所の物件選び|第2話

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、「民泊」と「簡易宿所」の制度の違いについて解説しました。
では、どちらの制度を利用するか考えたあと、次に重要になるのは何でしょうか。
それが「物件選び」です。
宿泊施設というと、立地や内装、部屋の雰囲気に目が向きがちです。もちろん、旅行者に選ばれる宿をつくるうえで、それらは大切です。
しかし、行政書士として物件を見るときには、その前に確認したいことがあります。
図面。
建物の用途。
建築関係の資料。
消防設備。
避難経路。
なぜなら、どれほど魅力的な物件でも、宿泊施設として必要な法令上の条件を満たせなければ、そのまま開業することはできないからです。
今回は、横浜市で民泊・簡易宿所を始めるときに知っておきたい「物件選びの落とし穴」を、建築と消防を中心に整理します。
1.建築基準法上の「用途」を確認する
住宅を簡易宿所へ転用する場合、最初に確認したいのが建築基準法上の建物用途です。
簡易宿所は旅館業法上の営業形態ですが、建築基準法では「ホテル又は旅館」として扱われます。
そのため、現在「住宅」として使われている建物を簡易宿所として利用する場合には、用途変更に関する確認が必要になります。
簡易宿所では用途変更の確認が重要
特に用途変更する部分の床面積が200㎡を超える場合などは、建築基準法に基づく確認申請が必要となることがあります。
また、確認申請が必要になるかどうかだけを見ればよいわけではありません。
宿泊施設として利用することで、避難経路、非常用照明、防火関係などについて確認や改修が必要になる場合があります。
古民家や築年数の古い住宅では、建物を安く取得できても、宿泊施設として利用するための改修費が想定以上になることがあります。
だからこそ、「買ってから調べる」のではなく、候補物件の段階で建築上の確認をしておくことが大切です。
民泊は「住宅」であることが前提
住宅宿泊事業法に基づく民泊では、対象となる建物が同法上の「住宅」の要件を満たしていることが前提です。
簡易宿所とは制度の考え方が異なるため、一般的には旅館・ホテルへの用途変更とは別の整理になります。
ただし、「民泊だから建築関係の確認は不要」という意味ではありません。
建物の状況や利用方法によって確認すべき事項は変わるため、物件ごとに見ていく必要があります。
2.物件選びでは消防を後回しにしない
物件選びで、建築と並んで早い段階から確認したいのが消防です。
宿泊施設では、建物に詳しくない旅行者が就寝します。火災が発生したとき、自宅と同じように避難できるとは限りません。
そのため、宿泊施設に対しては火災を早く知らせ、安全に避難するための設備が重要になります。
「物件を契約して、内装を決めて、最後に消防署へ相談する」という順番には注意が必要です。
消防設備の内容によっては、開業費用や工事内容そのものが変わる可能性があるからです。
簡易宿所では消防設備を物件ごとに確認する
簡易宿所は、消防法令上、旅館・ホテル等として取り扱われる宿泊施設です。
建物の規模や構造などによって異なりますが、自動火災報知設備、誘導灯、消火器などの消防用設備が必要になることがあります。
既存住宅を簡易宿所にする場合には、「今、自宅として問題なく使えているから大丈夫」とは限りません。
住宅から宿泊施設へ使い方が変わることで、必要となる消防設備も変わる可能性があります。
ここは物件購入費や家賃だけを見ていては分からない部分です。
気になる物件が見つかった段階で、図面などを用意し、所在地を管轄する消防署へ事前に相談しておくことが重要です。
民泊でも消防法令の確認は必要
民泊についても、「住宅だから消防設備は住宅用火災警報器だけでよい」と一律に判断することはできません。
横浜市では、届出住宅の形態によって、消防法令上「住宅」として扱われる場合と「旅館・ホテル等」として扱われる場合があります。
例えば、横浜市の案内では、家主居住型で宿泊室の床面積が50㎡以下の場合は消防法令上「住宅」として整理されますが、それ以外では旅館・ホテルとして扱われる場合があります。
その場合、自動火災報知設備など新たな消防用設備が必要になることがあります。
さらに、住宅宿泊事業の届出では、消防法令への適合について確認した書類も関係します。
つまり、「民泊=消防対応が軽い」と最初から決めつけないことが大切です。
物件選びの段階から消防を確認する
これは、民泊・簡易宿所のどちらを選ぶ場合でも共通する実務ポイントです。
3.本人確認と「フロント」の考え方
宿泊施設では、誰が宿泊しているのかを適切に確認し、緊急時に対応できる体制も必要です。
簡易宿所は「玄関帳場」または「代替設備」
横浜市の旅館業施設では、簡易宿所を含め、「玄関帳場」または一定の要件を満たす「代替設備」が必要です。
そのため、「簡易宿所なら必ず昔ながらのフロントカウンターを置かなければならない」というわけではありません。
現在は、本人確認や施設への出入りを確認する設備などを活用した運営方法も制度上想定されています。
ただし、単にスマートロックやタブレットを設置すればよいという意味ではありません。
どのような設備・運営方法で基準を満たすのか、計画段階で保健所へ確認しておく必要があります。
民泊も運営体制まで考えておく
住宅宿泊事業法による民泊では、簡易宿所と同じ玄関帳場の設置を前提とする制度ではありません。
一方で、宿泊者名簿、本人確認、安全確保、苦情への対応など、事業者として行わなければならないことがあります。
物件だけではなく、「誰が宿泊者に対応するのか」「夜間や緊急時はどうするのか」まで含めて考えておくことが必要です。
4.物件は「価格」ではなく開業までの総額で見る
物件を探していると、「家賃が安い」「古民家の雰囲気がいい」「駅から近い」「すぐに使えそう」という
魅力的な条件に目が向きます。
しかし、宿泊事業では物件価格だけで判断しないことが重要です。
例えば、安く取得できた古民家でも、建築上の改修、消防設備、水回り、電気設備、空調、内装、家具・備品などを加えると、
開業までの総額が大きくなることがあります。
反対に、取得価格は少し高くても、宿として使いやすい建物であれば、改修負担を抑えられることもあります。
見るべきなのは、「いくらで借りられるか、買えるか」だけではありません。
「宿として営業できる状態にするまで、いくらかかるか」という視点です。
5.今日の実務ワンポイント
民泊・簡易宿所の候補物件が見つかったら、大きな契約や改修を進める前に「建築」と「消防」を確認しましょう。
特に消防は、物件契約後に確認するものではありません。
必要な設備によって工事費や開業スケジュールが変わる可能性があります。
物件資料や図面を用意して、保健所、消防、建築の確認事項を早い段階で整理する。
これが、宿泊事業の物件選びで余計な手戻りを減らすポイントです。
6.まとめ|安い物件より「宿として使える物件」
宿泊事業の物件選びで大切なのは、「安い物件を見つけること」ではありません。
その物件で予定する宿泊事業を実現できること。
そして、必要な改修費を含めても、事業として無理なくスタートできることです。
簡易宿所では、建築基準法、消防法令、旅館業法など複数の確認が必要になります。
民泊でも、住宅宿泊事業法だけを見ればよいわけではなく、消防、建物、地域のルールなどを確認する必要があります。
その中でも消防は、「最後に設備を付ければよい」というものではありません。
必要となる設備によって物件選びや改修計画そのものが変わることがあるため、契約前から確認しておくことが重要です。
私は旅行業に37年間携わり、多くの宿泊施設と旅行者を見てきました。
旅行者の立場から見れば、魅力ある建物、心地よい客室、その地域ならではの体験は大切です。
しかし、それを宿として届けるためには、安全に泊まれる建物であることが大前提です。
行政書士となった今、宿づくりで大切だと感じるのは、「この物件は素敵か」だけではなく、
「この物件で、安全に、無理なく、長く宿を続けられるか」を見ることです。
許可を取るためだけの物件選びではなく、開業後も続けられる宿をつくるための物件選びをしていきましょう。
7.今日のチェックポイント
□ 民泊と簡易宿所のどちらを想定するか整理した
□ 建物の現在の用途を確認した
□ 建築確認関係の資料を確認した
□ 宿泊施設として建築上の確認が必要か調べた
□ 消防署への事前相談を考えている
□ 必要となる消防設備を確認した
□ 避難経路を確認した
□ 改修費を含めた開業総額を考えた
□ 物件契約前に行政への確認を進めている
すべてにチェックが入っていなくても問題ありません。
重要なのは、契約してから問題を見つけるのではなく、「まだ何を確認していないのか」を契約前に把握することです。
8.行政書士田中穂積の視点
旅行業にいた頃は、宿を見るときに「旅行者にとって魅力があるか」を中心に見ていました。
現在は行政書士として、そこにもう一つの視点が加わりました。
「この建物は、本当に宿として使えるのか」という視点です。
旅行者に選ばれる宿をつくることと、法令に適合した安全な宿をつくることは、どちらも欠かせません。
物件、建築、消防、許可、運営を別々に考えるのではなく、開業までの一つの流れとして整理する。
旅行業37年の経験と行政書士としての実務を生かし、許可申請だけではなく、その前段階となる物件選びから一緒に考えることが私の役割だと考えています。
9.Q&A|民泊・簡易宿所の物件選び
Q1.古い空き家でも民泊・簡易宿所にできますか?
可能性はあります。
ただし、建物の用途、建築上の状況、消防設備、避難経路、老朽化の程度などによって、改修が必要になることがあります。
特に古民家や空き家は、建物の雰囲気だけで判断せず、宿として使うまでの改修費を含めて検討することが大切です。
Q2.建築確認済証が見当たりません。開業できませんか?
建築確認済証が見当たらないことだけで、直ちに開業できないと決まるわけではありません。
古い建物では紛失していることもあります。
ただし、建物の適法性や過去の建築手続きを確認するための重要な資料ですので、確認済証や検査済証など、どの資料が残っているのかを早い段階で確認しておきましょう。
Q3.民泊なら消防設備は簡単で済みますか?
一律には言えません。
横浜市では、住宅宿泊事業であっても、施設の形態によって消防法令上「旅館・ホテル等」として扱われ、自動火災報知設備などが必要になる場合があります。
そのため、「民泊だから消防は大丈夫」と判断せず、候補物件の段階で管轄消防署へ相談することが重要です。
10.次回予告
次回は、「この物件NGです」になる前に|横浜民泊の用途地域と条例の落とし穴|第3話です。
今回、建物そのものについて「建築」と「消防」を確認する重要性をお伝えしました。
しかし、建物に問題がなくても、もう一つ確認しなければならないものがあります。
それが、「その場所で宿泊事業ができるのか」というエリアの問題です。
用途地域。
横浜市の民泊条例。
マンションの管理規約。
周辺環境。
物件そのものが魅力的でも、場所のルールによって計画を見直さなければならないことがあります。
次回は、契約した後に「この場所では難しかった」とならないために、横浜市で民泊・簡易宿所を考えるときの用途地域と条例を整理します。
\ 民泊・簡易宿所の開業を検討している方へ /
「この物件で民泊・簡易宿所ができるのか」
「消防設備がどこまで必要なのか」
「契約前に何を確認すればよいのか」
「古民家・空き家を宿にできるのか」
物件を契約する前だからこそ、確認できることがあります。
行政書士田中穂積事務所では、横浜市・神奈川県を中心に、民泊・簡易宿所の開業について、物件選びの段階から旅館業許可・住宅宿泊事業の届出までサポートしています。
行政書士だけで判断できない建築・消防などについては、行政窓口や必要な専門家と確認しながら、開業までの道筋を整理します。
目指すのは、単に許可や届出を終えることではありません。
旅行者が安心して泊まれ、地域に受け入れられ、開業後も無理なく続けられる宿をつくることです。
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▶ 前回: 横浜で開業!簡易宿所と民泊の違いを行政書士が徹底比較|第1話
▶ 次回:「この物件NGです」になる前に|横浜民泊の用途地域と条例の落とし穴|第3話
この記事を書いた人 Wrote this article
田中穂積
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。