宿泊と古民家カフェを組み合わせるときの注意点|第8話

宿泊と古民家カフェを組み合わせるときの注意点|第8話

~旅館業許可と飲食店営業許可を一体で考える~

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
古民家カフェを地域に愛される観光拠点にするには
について考えました。
地域の飲食店や商店を紹介する。
地元の商品や食材を活用する。
周辺を歩いてもらう仕組みをつくる。
地域住民の声を店づくりに生かす。
こうした取組によって、古民家カフェは飲食を提供する場所だけでなく、地域の魅力を伝える観光拠点にもなります。

今回は、
宿泊と古民家カフェを組み合わせるときの注意点
について考えます。いつもの日曜日の朝はリラックスしてお付き合いください。
古民家を活用する方法は、
宿泊施設か。
カフェか。
どちらか一つとは限りません。
古民家宿で朝食を提供する。
宿泊者以外にもカフェを開放する。
昼はカフェ、夜は宿として使用する。
地域イベントの際に食事を提供する。
といった組合せも考えられます。
しかし、
旅館業許可があれば自由に食事を提供できる。
飲食店営業許可があれば宿泊者を受け入れられる。
というわけではありません。
👉宿泊と飲食を組み合わせる場合は、二つの営業を一つの建物全体で考える必要があります。

旅館業許可と飲食店営業許可は別の手続です

宿泊料を受けて人を宿泊させる営業には、原則として旅館業法に基づく許可が必要です。
旅館業の許可では、客室、換気、採光、衛生設備など、宿泊施設としての構造設備が確認されます。
一方、食品を調理して客に提供する営業は、食品衛生法上の飲食店営業に該当し、営業内容に応じた許可が必要です。
飲食店営業には、一般のレストランやカフェだけでなく、ホテル・旅館の厨房も含まれます。
つまり、
👉宿泊を行うための許可。
👉食事を提供するための許可。
は別々に確認しなければなりません。
同じ建物で営業する場合でも、どの場所で何を行うのかを明確にする必要があります。

最初に営業の形を具体的にする

「古民家で宿とカフェをやりたい」
というだけでは、必要な設備や許可を判断できません。
まず、実際の営業方法を書き出します。

・宿泊者にだけ食事を提供する

例えば、
朝食だけを提供する。
夕食付きの宿泊プランを販売する。
宿泊者へ軽食や飲物を提供する。
という形です。
宿泊者だけを対象とする場合でも、厨房で食品を調理して提供するのであれば、
飲食店営業許可の要否や施設基準を管轄の保健所へ確認する必要があります。
提供する料理の内容。
一度に提供する食数。
調理方法。
厨房の設備。
食材の保管方法。
によって、必要な準備が変わります。

・宿泊者以外にもカフェを開放する

一般の利用者も受け入れる場合は、
カフェの営業時間。
客席数。
出入口。
トイレ。
注文や会計の場所。
宿泊エリアとの区分。
を考える必要があります。
宿泊者がくつろぐ場所と、一般客が利用する場所が混在すると、
客室の前を一般客が通る。
宿泊者専用の設備を一般客が使う。
夜間も宿泊エリアへ出入りできる。
といった問題が生じることがあります。
「昼間だけだから大丈夫」と考えず、施設全体の使い方を図面で整理します。

・地域イベントで食事を提供する

地域のお祭りやイベントに合わせて、一時的に食品を提供する場合も、内容によっては営業許可や届出が必要です。
横浜市では、行事で食品を扱う場合について、臨時営業許可や行事概要の届出などの手続を案内しています。
開催方法や設備によって取扱いが異なるため、事前確認が必要です。
👉宿泊者向け、一般客向け、イベント向けでは、同じ食事提供でも確認事項が異なります。

厨房は宿泊とカフェの両方から考える

古民家では、昔の台所を活用したいと考えることがあります。
しかし、家庭用の台所が、そのまま営業用の厨房として使えるとは限りません。
確認したいのは、
手洗い設備。
洗浄設備。
給排水。
冷蔵・冷凍設備。
食材や器具の保管場所。
床・壁・天井の状態。
換気。
害虫やねずみの侵入防止。
などです。
横浜市では、食品営業許可の申請前に、施設基準や設備について早めに区の福祉保健センター生活衛生課へ相談するよう案内しています。
特に古民家の場合は、
梁や柱を残したい。
土間を活用したい。
昔の流しや戸棚を生かしたい。
という希望と、営業施設として必要な衛生基準を両立させる必要があります。
工事が終わってから設備不足が分かると、追加工事や計画変更が必要になります。

客席と宿泊空間をどう分けるか

宿泊とカフェを組み合わせるときは、厨房だけでなく、客席と宿泊空間の関係も重要です。
例えば、
玄関を共用するのか。
受付とカフェ会計を同じ場所にするのか。
宿泊者と一般客が同じトイレを使用するのか。
カフェ客が客室の近くを通るのか。
宿泊者専用の共有スペースを設けるのか。
を検討します。

・宿泊者の安心を守る

宿泊者にとって、宿は一時的な生活空間です。
カフェ客が自由に宿泊エリアへ入れる状態では、
荷物や貴重品。
子どもの安全。
プライバシー。
夜間の静けさ。
に不安が生じます。
宿泊エリアと一般利用エリアの境界を分かりやすくし、必要に応じて扉や施錠、案内表示を設けます。

・カフェ利用者にも分かりやすくする

一方、一般客にとっても、
どこから入ればよいか。
どこまで利用できるか。
トイレはどこか。
立入り禁止の場所はどこか。
が分からなければ利用しにくくなります。
古民家の雰囲気を残しながらも、初めて来た人が迷わない動線を考えることが大切です。

消防と避難経路は施設全体で確認する

旅館業と飲食店営業を同じ建物で行う場合、建物の使い方や利用人数が変わります。
昼間はカフェ客。
夜間は宿泊者。
イベント時は通常より多い来場者。
というように、時間帯によって利用する人や人数が異なることがあります。
そのため、
避難経路。
非常口。
誘導灯。
消火器。
火気設備。
収容人数。
防火管理。
などを、宿泊部分と飲食部分を合わせて確認します。
古民家は、
廊下が狭い。
階段が急である。
出入口が限られている。
木材が多く使われている。
間仕切りや増築の履歴が分からない。
ということがあります。
厨房の火気やカフェ客の増加によって必要な消防設備が変わる可能性もあるため、設計や工事の前に消防署へ相談します。

「昼はカフェ、夜は宿」でも単純ではありません

同じ部屋を、
昼間はカフェの客席。
夜は宿泊者の共有スペース。
として使いたいと考えることもあります。
時間帯を分ければ問題がないように見えますが、
家具や設備を毎日どのように切り替えるのか。
清掃や衛生管理をどうするのか。
カフェの営業時間が延びた場合にどうするのか。
宿泊者が早く到着した場合はどうするのか。
宿泊者の荷物をどこに置くのか。
を決める必要があります。
営業時間を分けるだけでなく、切替えに必要な時間と作業まで考えます。
👉一つの空間を二つの営業で使う場合は、時間と動線の両方を整理することが重要です。

営業開始後に内容を変える場合も確認する

最初は宿泊者へ朝食だけを提供していたが、後から一般客向けのカフェを始めたい。
最初はカフェだけだったが、二階を宿泊施設にしたい。
このように、営業開始後に内容を変更することもあります。
しかし、
客席を増やす。
厨房を広げる。
間仕切りを変更する。
新しい出入口を設ける。
宿泊定員を変更する。
といった変更は、旅館業、食品衛生、消防、建築に関係する可能性があります。
横浜市も、旅館業施設について申請内容に変更が生じた場合には、変更の届出や事前相談が必要になることを案内しています。
営業を始めてから少しずつ広げる場合も、工事や予約受付の前に確認します。

許可を別々に進めない

宿泊は旅館業だから保健所の環境衛生担当へ。
カフェは食品衛生だから別の担当へ。
消防は消防署へ。
建物は建築担当へ。
というように、相談先は分かれます。
しかし、計画する側が相談を別々に進めると、
旅館業の図面と飲食店営業の図面が違う。
消防へ説明した客席数と保健所へ説明した客席数が違う。
宿泊者の動線と一般客の動線が整理されていない。
ということが起こります。
相談先が複数でも、提出する計画の土台は一つです。
最初に、
宿泊者数。
カフェの客席数。
営業時間。
食事提供の対象。
厨房の使い方。
宿泊者と一般客の動線。
を一枚の図面と運営計画にまとめます。
横浜市は旅館業について、計画の早い段階で施設所在地を所管する区の福祉保健センターへ相談するよう案内しています。

今日の実務ワンポイント

紙を一枚用意し、古民家で行いたいことを時間帯ごとに書き出してみましょう。

宿泊者へ朝食を提供する。
チェックアウトの対応をする。

一般客向けにカフェを営業する。
地域の商品を販売する。
夕方・夜
カフェを閉店する。
宿泊者を受け入れる。
夕食や飲物を提供する。
その横に、
誰が利用するか。
どの部屋を使うか。
どこから出入りするか。
どの厨房設備を使うか。
何人が滞在するか。
を書きます。
👉時間帯ごとの利用者・場所・人数を整理すると、許可や設備の確認がしやすくなります。

まとめ

古民家で宿泊とカフェを組み合わせることは、建物の魅力を生かし、地域に人を呼ぶ方法の一つです。
しかし、
旅館業許可があるから食事を提供できる。
飲食店営業許可があるから宿泊させられる。
というものではありません。
確認したいのは、
宿泊者へ何を提供するのか。
一般客も利用するのか。
厨房をどう整えるのか。
宿泊者とカフェ客の動線をどう分けるのか。
消防設備や避難経路に問題がないか。
営業内容を切り替える時間を確保できるか。
という点です。
特に大切なのは、
👉旅館業許可と飲食店営業許可を別々の計画として進めないこと
です。
一つの建物。
一つの図面。
一日の営業の流れ。
として整理し、保健所、消防署、建築担当などへ事前に相談する。
それが、工事後の手戻りを防ぎ、古民家の魅力を安全に生かすことにつながります。

今日のチェックポイント

□ 宿泊者へ提供する食事の内容を決めている
□ 宿泊者以外にもカフェを開放するか決めている
□ 旅館業許可と飲食店営業許可を分けて確認している
□ 営業用厨房として必要な設備を確認している
□ 宿泊者と一般客の出入口・動線を整理している
□ 客席と宿泊エリアの境界を決めている
□ 時間帯ごとの利用人数を整理している
□ 避難経路と消防設備を確認している
□ イベント時の食品提供について確認している
□ 設計・契約・工事の前に行政へ相談している
すべてにチェックが付かなくても構いません。
まずは、
誰に食事を提供するのか。
どの場所を使うのか。
宿泊者と一般客がどこを通るのか。
の三つから整理してみましょう。

行政書士田中穂積の視点

旅行業界で37年間、さまざまな宿泊施設を見てきました。
宿にカフェやレストランがあることは、宿泊者にとって大きな魅力になります。
朝食を楽しみに宿を選ぶ。
地域の食材を味わう。
宿泊していない人もカフェを訪れる。
カフェをきっかけに、次は宿泊してみたいと思う。
このように、宿泊と飲食はお互いの価値を高めることができます。
一方で、宿泊と飲食を同じ建物で行うと、
許可。
厨房。
動線。
衛生。
消防。
営業時間。
が複雑になります。
行政書士としてお手伝いしたいのは、申請書を別々に作ることだけではありません。
どのような営業をしたいのかを整理する。
宿泊者と一般客の利用方法を図面に落とし込む。
必要な許可と相談先を洗い出す。
保健所や消防署への相談順序を整える。
設計者や工事業者へ必要な条件を共有する。
ことです。
古民家の雰囲気を守りながら、宿泊者にもカフェ利用者にも安心して使ってもらえる施設にする。
そのためには、改修工事の前から、宿泊と飲食を一つの事業として考えることが大切です。

Q&A|宿泊と古民家カフェの組合せ

Q1.古民家宿で宿泊者に朝食を出すだけでも、飲食店営業許可は必要ですか。
A 調理方法、提供内容、厨房の状況などによって確認が必要です。
宿泊者だけを対象とする場合でも、食品を調理して提供するのであれば、計画段階で管轄の保健所へ相談してください。

Q2.昼だけカフェを営業すれば、宿泊エリアと分けなくてもよいですか。
A 営業時間を分けるだけではなく、一般客が立ち入る範囲、客室への動線、トイレ、荷物の管理などを整理する必要があります。
宿泊者の安全とプライバシーを守れる使い方になっているかを確認します。

Q3.先に古民家を改修してから許可の相談をしてもよいですか。
A 工事後に設備不足や動線の問題が分かると、追加工事が必要になる可能性があります。
旅館業、食品衛生、消防、建築の各条件を、設計や工事を始める前に確認することが大切です。

次回予告

次回は、
空き家活用で失敗する人の共通点
について考えてみたいと思います。
古民家宿。
古民家カフェ。
地域交流施設。
体験型観光施設。
空き家には、さまざまな活用方法があります。
しかし、
建物の雰囲気が気に入った。
補助金が使えそうだった。
安く購入できた。
地域のためになると思った。
という思いだけで進めると、後から問題が見つかることがあります。
例えば、
希望する営業ができない地域だった。
消防設備の追加費用が大きかった。
建物の修繕費が想定を超えた。
近隣への説明が不足していた。
許可取得までの期間を見込んでいなかった。
開業後の運転資金が足りなかった。
というケースです。
次回は、
👉空き家を契約・購入・改修する前に確認しておきたい実務
について、旅行業37年の経験と行政書士としての視点から整理します。

\ 古民家・空き家を「壊す」のではなく「活かしたい」方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
・古民家を宿として活用したい
・空き家を観光資源として活かしたい
・古民家カフェを始めたい
・旅館業許可や飲食店営業許可について相談したい
・保健所や消防署への相談に不安がある
といったお悩みに対し、旅行業界での37年の現場経験と、行政書士としての法務視点を踏まえてサポートしています。
古民家や空き家は、地域に残された大切な資源です。
👉「壊す」のではなく「活かす」
その一歩を法務の面から支えることが、行政書士としての私の役割だと考えています。
旅館業許可、民泊、飲食店営業許可、消防署・保健所との事前相談など、古民家・空き家活用に必要な手続を、計画段階から実務に合わせて伴走いたします。
古民家や空き家は、建物の状態、営業内容、必要な許可、相談範囲が物件ごとに異なります。
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この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積

横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。