旅館・ホテルの宿泊者名簿と本人確認の実務|第14話

旅館・ホテルの宿泊者名簿と本人確認の実務|第14話

~外国人宿泊者への対応と個人情報管理で迷わないために~
こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、
旅館業許可取得後も続く消防・保健所対応の実務
について考えました。
旅館業許可を取得した後も、
消防設備の点検や衛生管理、
客室・定員・設備を変更する際の相談や届出は続きます。
そして、日々の営業の中で欠かせないものの一つが、
宿泊者名簿です。
宿泊者名簿は、
宿泊者の氏名を書いてもらうだけの書類ではありません。
必要な事項を正確に記載する。
宿泊者本人であることを確認する。
外国人宿泊者について必要な対応を行う。
個人情報として適切に保存する。
警察などから照会を受けた場合に対応する。
という、フロント業務と法令対応の両方に関係します。
今回は、
👉旅館・ホテルの現場で見落としやすい、宿泊者名簿と本人確認の実務
について考えます。

宿泊者名簿はすべての宿泊者について作成します

旅館業を営む営業者は、
宿泊者名簿を備えなければなりません。
現在、旅館業法上の基本的な記載事項は、
・氏名
・住所
・連絡先
です。
2023年12月13日の旅館業法改正により、
従来の「職業」が削除され、
新たに「連絡先」が追加されました。
さらに横浜市では、
・到着日時
・出発日時
・年齢
・国籍
・旅券番号
を記載できる様式とすることが定められています。
ただし、国籍と旅券番号の記載が必要となるのは、
原則として日本国内に住所を有しない外国人宿泊者です。
大切なのは、
👉予約代表者だけでなく、実際に宿泊する人を把握すること
です。
家族やグループで宿泊する場合も、
誰が宿泊しているのかを確認できる状態にしておく必要があります。

予約情報だけで済ませず、チェックイン時に確認する

OTAや自社サイトから予約を受けると、
氏名。
住所。
電話番号。
メールアドレス。
などが、すでに登録されていることがあります。
しかし、予約された情報をそのまま宿泊者名簿に転記するだけでは、
実際に宿泊する人と一致しているか分かりません。
厚生労働省は、宿泊者名簿の正確な記載を確保するため、チェックイン時に
本人確認を行う
必要があるとしています。
確認したいのは、
予約者と宿泊者が同じか。
同行者を含めた宿泊人数が合っているか。
記載された住所や連絡先に不足がないか。
という点です。
👉予約情報を集めることと、宿泊者本人を確認することは別です。
無人・省人型の施設でも、
対面またはICTを活用した対面と同等の方法で、
本人確認ができる体制を整える必要があります。

外国人宿泊者全員にパスポートの写しが必要?

外国人宿泊者への対応で、
特に混同しやすい点があります。
パスポートの提示と写しの保存が求められるのは、
👉日本国内に住所を有しない外国人宿泊者
です。
この場合には、通常の記載事項に加えて、
・国籍
・旅券番号
を宿泊者名簿に記載し、
パスポートの提示を求め、
その写しを宿泊者名簿とともに保存します。
一方、日本国内に住所を有する外国人宿泊者については、
「外国人だから」という理由だけで、
同じ対応が一律に必要になるわけではありません。
フロントでは、
外国籍かどうか。
ではなく、
👉日本国内に住所があるか。
を確認することが重要です。
案内文も、
「外国人の方はパスポートを提示してください」
ではなく、
👉「日本国内に住所をお持ちでない外国人の方は、法令に基づきパスポートの提示をお願いします」
とした方が、対象者を正確に伝えられます。

パスポート情報は必要な範囲だけを扱う

パスポートには、
顔写真。
氏名。
生年月日。
国籍。
旅券番号。
など、多くの個人情報が記載されています。
そのため、写しを取得した後は、
誰が取り扱うのか。
どこへ保存するのか。
紙とデータのどちらで管理するのか。
保存期間後にどのように廃棄するのか。
を決めておく必要があります。
👉宿泊者名簿は、作成の日から3年間保存することとされています。
紙だけでなく、要件を満たせば電磁的記録で保存することもできます。
例えば、
紙の名簿をフロントに置いたままにする。
宿泊者が他の宿泊者の記載内容を見られる。
パスポート画像をスタッフ個人のスマートフォンへ保存する。
必要以上のスタッフが閲覧できる。
保存期間を過ぎても放置する。
という状態は避けなければなりません。
👉取得することだけでなく、保存・閲覧・廃棄までを一つの手順にする。
ことが大切です。

宿泊者がパスポートの提示を拒んだ場合

日本国内に住所を有しない外国人宿泊者から、
なぜコピーが必要なのか。
個人情報なので渡したくない。
と言われることも考えられます。
その場合は、
施設独自の要求ではなく、
👉国の案内に基づく対応であることを説明します。
厚生労働省は、多言語の案内文を公表しています。
チェックイン時に説明できるよう、
英語など必要な言語の案内を準備しておくとよいでしょう。
それでも提示を拒む場合について、厚生労働省は、旅券不携帯の可能性もあるため、
最寄りの警察署へ連絡するなど適切に対応するよう案内しています。
現場のスタッフが一人で判断せず、
責任者へ報告する。
説明した内容を記録する。
必要に応じて警察へ相談する。
という手順を決めておくことが大切です。

警察などから照会を受けたとき

宿泊者名簿は、
感染症発生時の調査や、
事件・事故への対応などで確認を求められることがあります。
厚生労働省は、警察官から職務上の宿泊者名簿の閲覧請求があった場合には、
その目的に必要な範囲で協力するよう示しています。
また、法令に基づく捜査機関からの照会に対して個人情報を提供する場合は、
本人の同意を得なくても、個人情報保護法上の第三者提供の例外に該当します。
ただし、現場のスタッフが口頭の問い合わせだけで、
すぐにすべての情報を伝える運用は避けたいところです。
施設内で、
照会を受ける責任者。
相手の所属や身分の確認方法。
提供した情報の範囲。
対応日時。
担当者名。
を記録する手順を決めておきます。
👉照会には協力しつつ、誰に何を伝えたのかを残す。
ことが、個人情報管理の面でも重要です。

宿泊者名簿の様式と運用を一緒に見直す

宿泊者名簿の様式が整っていても、
実際のフロントで使われていなければ意味がありません。
例えば、
改正前の様式を使い続けている。
連絡先の欄がない。
職業欄が残ったままになっている。
同行者の情報を確認していない。
外国人宿泊者への説明方法がスタッフによって違う。
パスポートの写しの保存場所が決まっていない。
ということがあります。
見直すときは、
名簿の記載欄。
本人確認の方法。
外国人宿泊者への案内。
保存場所。
閲覧権限。
照会を受けた場合の対応。
を一緒に確認します。
書類だけを新しくするのではなく、
チェックインから保存までの流れを整えることが大切です。

今日の実務ワンポイント

現在使用している宿泊者名簿を確認してみましょう。
氏名。
住所。
連絡先。
到着日時。
出発日時。
年齢。
必要な場合の国籍・旅券番号。
を記載できるようになっているでしょうか。
さらに、
誰が本人確認をするのか。
パスポートの写しをどこへ保存するのか。
3年後にどのように廃棄するのか。
まで確認します。
👉名簿の様式と、現場の手順をセットで見直す。
ことが実務上のポイントです。

まとめ

宿泊者名簿は、
氏名を書いてもらうだけの書類ではありません。
必要な事項を正確に記載する。
チェックイン時に本人確認を行う。
日本国内に住所を有しない外国人宿泊者について、
国籍・旅券番号を確認し、パスポートの写しを保存する。
宿泊者名簿を3年間、適切に管理する。
警察などから照会を受けた場合の手順を決める。
という対応が必要です。
特に大切なのは、
👉予約情報、本人確認、名簿、パスポート情報を別々に管理しないこと
です。
チェックインから保存・廃棄までを一つの流れにすることで、
スタッフの判断のばらつきや、
個人情報の取扱いミスを減らせます。

今日のチェックポイント

□ 現在の記載事項に「連絡先」が入っている
□ 改正前の「職業」欄を見直している
□ 宿泊者全員を把握できる様式になっている
□ チェックイン時に本人確認を行っている
□ 予約者と実際の宿泊者を照合している
□ 日本国内に住所を有しない外国人宿泊者を区別している
□ パスポートの写しの保存場所を決めている
□ 宿泊者名簿を3年間保存している
□ 保存期間後の廃棄方法を決めている
□ 警察などから照会を受けた場合の責任者を決めている
すべてにチェックが付かなくても構いません。
まずは、
名簿に記載すること。
本人へ確認すること。
施設内で管理すること。
の三つに分けて見直してみましょう。

行政書士田中穂積の視点

旅行業界で37年間、
多くの宿泊施設と旅行者を見てきました。
宿泊者名簿は、
お客様にとってはチェックイン時の短い手続です。
しかし、宿泊施設にとっては、
誰が宿泊しているのかを確認する。
緊急時に連絡できるようにする。
外国人宿泊者へ正しく説明する。
個人情報を安全に管理する。
という、大切な業務です。
特に、外国人宿泊者が増える中では、
外国人だからパスポートを求める。
スタッフによって案内が違う。
説明できずにトラブルになる。
という運用は避けなければなりません。
法令上必要なことを整理し、
多言語の案内やフロントの手順へ落とし込む。
そして、スタッフが迷わず対応し、
宿泊者にも安心して協力してもらえる環境をつくる。
行政書士として、
宿泊者名簿の様式を整えるだけでなく、
施設の実際のチェックイン業務に合った運用を支えることが大切だと考えています。

Q&A|宿泊者名簿と本人確認

Q1.外国人宿泊者には全員、パスポートの提示を求めるのでしょうか。
A 対象となるのは、原則として日本国内に住所を有しない外国人宿泊者です。
日本国内に住所を有する外国人宿泊者について、外国籍であることだけを理由に同じ対応を一律に求めるものではありません。

Q2.OTAに登録された情報を宿泊者名簿として使えますか。
A 予約情報だけで完了させるのではなく、チェックイン時に本人確認を行い、実際の宿泊者と内容が一致しているかを確認する必要があります。
電子的に管理する場合も、必要な事項、本人確認、保存期間を満たす運用が必要です。

Q3.宿泊者名簿やパスポートの写しは、紙で保存しなければなりませんか。
A 要件を満たせば、電磁的記録による保存も可能です。
ただし、閲覧できる職員、保存場所、情報漏えいへの対策、保存期間後の削除方法まで決めておく必要があります。

次回予告

次回は、
旅館・ホテルの変更届|客室・定員・設備を変える前に確認したいこと
について考えてみたいと思います。
営業を続ける中で、
客室を増やしたい。
宿泊定員を変更したい。
間仕切りや設備を変えたい。
食事の提供を始めたい。
法人名や代表者が変わった。
ということがあります。
しかし、一口に変更といっても、
届出で対応できるもの。
事前に保健所や消防署へ相談すべきもの。
新たな許可や設備対応が必要になるもの。
があります。
次回は、
👉旅館・ホテルの営業内容を変える前に、何をどこへ確認すべきか
について、旅行業37年の経験と行政書士としての視点から整理します。

\ 旅館・ホテルの開業後の運営を見直したい方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
旅館業許可やホテル開業支援だけでなく、
開業後の運営や法令対応についてもご相談を承っています。
例えば、
・客室や設備変更時の手続確認
・宿泊定員や営業内容の変更届
・消防署、保健所への事前相談
・旅館業許可内容と現在の運営状況の確認
・宿泊者名簿や各種運営書類の整備
など、施設の状況に応じて支援内容を整理します。
旅館・ホテルは、
建物の規模、設備、営業内容、必要な調査や届出が施設ごとに異なります。
そのため、当事務所では、
ご相談内容と必要な支援を確認したうえで、
個別にお見積りをご案内しています。
また、
旅館・ホテル事業者の皆さまへ、
「旅館・ホテル運営チェックリスト」
を無料で進呈しております。
旅館業許可、変更届、外国人スタッフの在留資格、OTAと直接予約、宿泊料金、
宿泊者名簿、消防・衛生・近隣対応など、開業後に確認しておきたい項目を整理できる
チェックリストです。
👉現在できていることと、見直しが必要なことを確認するところから始めてみませんか。
チェックリスト(無料)のご請求は、
お問い合わせフォームより承っております。

▼ 関連ページはこちら
旅館業許可・ホテル開業支援
相談から正式依頼までの流れ
お問い合わせフォーム
横浜市泉区・中田駅周辺の事業者はもちろん、
オンライン相談により全国の旅館・ホテル事業者にも対応しています。

クイズ!旅館・ホテルの宿泊者名簿と本人確認

読み込み中…

前回 旅館業許可取得後も続く消防・保健所対応の実務|第13話
次回 旅館・ホテルの変更届|客室・定員・設備を変える前に確認したいこと|第15話

この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積