旅館・ホテルの変更届|客室・定員・設備を変える前に確認したいこと|第15話

旅館・ホテルの変更届|客室・定員・設備を変える前に確認したいこと|第15話

~「少し変えるだけ」と自己判断しないために~
こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
旅館・ホテルの宿泊者名簿と本人確認の実務
について考えました。
宿泊者名簿は、
必要事項を記載するだけでなく、
本人確認。
外国人宿泊者への案内。
パスポート情報の取扱い。
保存と廃棄。
照会を受けた場合の対応。
までを一つの流れとして整えることが大切です。
一方、旅館・ホテルを営業していると、
客室を増やしたい。
宿泊定員を変更したい。
間仕切りや設備を変えたい。
食事の提供を始めたい。
法人名や代表者が変わった。
ということがあります。
しかし、一口に変更といっても、
変更届で対応できるもの。
事前に保健所や消防署へ相談すべきもの。
別の許可や承継手続が関係するもの。
があります。

今回は、
👉旅館・ホテルの営業内容を変える前に、何をどこへ確認すべきか
について考えます。

変更届は「変更した後に出せばよい」とは限りません

横浜市では、旅館業の許可申請をした内容に変更が生じた場合に使用する
「旅館業営業事項変更届出書」が用意されています。
届出先は、施設所在地を所管する区福祉保健センター生活衛生課です。
ただし、
変更届の様式がある。
ということと、
工事や運用変更を先に進めてよい。
ということは別です。
特に、客室、間取り、設備、定員などを変える場合は、
旅館業の基準だけでなく、
消防。
建築。
食品衛生。
などの確認が必要になることがあります。
👉まず変更内容を相談し、必要な手続を確認してから進める。
これが基本です。

まず「何を変えるのか」を整理します

変更を考えたときは、
次の三つに分けてみましょう。

1.営業者や申請事項に関する変更

例えば、
施設名。
営業者の住所。
法人名。
法人の代表者。
管理体制。
などです。
このような変更は、
旅館業の変更届の対象になる可能性があります。
ただし、
法人の代表者が変わる。
法人そのものが別法人になる。
個人営業から法人営業へ変える。
事業を他者へ譲渡する。
というケースは、同じ扱いではありません。
誰が営業者になるのかが変わる場合は、
単なる名称変更ではなく、
承継承認や新たな許可が関係する可能性があります。

2.客室・定員・設備に関する変更

例えば、
客室を増減する。
物置を客室として使う。
客室の間仕切りを変える。
ベッドを追加する。
浴室や洗面設備を改修する。
フロントや共用部分を変更する。
というケースです。
このような変更は、
申請時の図面や構造設備の内容に影響します。
横浜市の旅館業における客室の収容定員は、旅館・ホテル営業の場合、
原則として客室床面積を3.3平方メートルで除して算出します。
ただし、実際の定員は床面積だけで決まるものではなく、設備や消防上の収容人数などとの確認も必要です。
👉OTAや自社サイトの販売定員を変える前に、許可内容と図面を確認する。
ことが大切です。

3.サービス内容に関する変更

例えば、
朝食の提供を始める。
宿泊者以外にも飲食を提供する。
厨房を新設する。
大浴場やサウナを設ける。
宴会やイベントを始める。
というケースです。
旅館業許可を取得していても、
新しく始めるサービスによっては、
飲食店営業許可。
食品営業に関する届出。
公衆浴場法上の確認。
消防設備の追加。
などが関係することがあります。
横浜市では、食品関係の営業を始める場合、業種によって営業許可または届出が必要であり、
施設が条例上の基準に適合する必要があります。
申請内容を変更した場合にも、食品営業側の変更手続が必要になることがあります。
👉旅館業許可があるから、宿で行うサービスを自由に追加できるとは限りません。

客室を増やすときは「空いている部屋」だけを見ない

営業を続けていると、
使っていない部屋を客室にしたい。
倉庫を宿泊スペースにしたい。
大きな客室を二つに分けたい。
と考えることがあります。
しかし、確認するのは、
その部屋の広さだけではありません。
例えば、
客室として必要な床面積があるか。
採光や換気を確保できるか。
廊下や階段へ安全に避難できるか。
消防設備の設置範囲が変わらないか。
宿泊者が使用するトイレや洗面設備が足りるか。
といった点も関係します。
横浜市の旅館業施設には、客室面積や採光、間仕切りなどに関する構造設備基準があります。
施設の一部を客室へ変える場合は、工事前に図面を用意して所管の生活衛生課へ相談することが重要です。
「すでに建物の中にある部屋だから大丈夫」
とは限りません。

定員変更は予約サイトだけで完了しません

客室にベッドを追加すれば、
販売できる人数も増やせるように思えます。
しかし、宿泊定員は、
客室面積。
避難経路。
消防設備。
共用設備。
許可申請時の内容。
と関係しています。
そのため、
OTAの定員。
自社サイトの定員。
館内表示。
宿泊者名簿。
旅館業許可上の定員。
に食い違いが生じないようにします。
特に、繁忙期だけ臨時に寝具を増やす場合も、
自己判断で行わず、
許可内容を確認する必要があります。
👉「泊められる人数」と「予約を取りたい人数」を同じにしない。
という視点が必要です。

間仕切りやレイアウト変更は消防にも影響します

客室や共用部分の間仕切りを変えると、
避難経路。
防火区画。
誘導灯の見え方。
感知器の配置。
消防設備の設置範囲。
が変わることがあります。
施設側には小さな改修に見えても、
消防上は確認が必要になる可能性があります。
そのため、
工事業者へ発注した後。
壁を造った後。
客室として使い始めた後。
ではなく、
計画段階で図面を消防署と保健所へ示すことが大切です。
👉工事の見積りを取る前に、行政上の条件を確認する。
この順番にすれば、
追加工事や設計変更を減らしやすくなります。

食事の提供を始める場合は旅館業と分けて考えます

素泊まりだった宿が、
朝食を始める。
夕食を提供する。
弁当を販売する。
宿泊者以外にもカフェを開く。
ということがあります。
この場合、
どこで、誰が、何を、どのように調理するかによって、
必要な食品衛生上の手続が変わります。
例えば、
既製品を渡すだけなのか。
施設内で加熱調理するのか。
宿泊者だけに提供するのか。
一般客にも提供するのか。
厨房を新設するのか。
を整理します。
メニューや営業方法を決めた後に相談するのではなく、
厨房工事や設備購入の前に、
区福祉保健センター生活衛生課へ確認します。
旅館業と食品営業は、
同じ施設内の営業であっても、
別の制度として確認する必要があります。

営業者が変わる場合は「変更届」と決めつけない

施設名や代表者名が変わる場合と、
営業者そのものが変わる場合は異なります。
例えば、
個人から法人へ営業を移す。
別法人へ事業を譲渡する。
施設を購入した新しい所有者が営業する。
という場合です。
横浜市では、旅館業の事業譲渡による承継制度を利用する場合、実際に事業を譲渡する前に、
横浜市保健所長の承継承認を受ける必要があります。
承認前に譲渡の効力が発生すると、承継制度の対象外となり、新たな営業許可が必要になる場合があります。
事業承継については、
シリーズの後半で詳しく扱います。
ここで大切なのは、
👉営業者が変わる計画は、契約を成立させる前に相談する。
ということです。

変更前に用意したいもの

保健所や消防署へ相談するときは、
口頭で説明するだけでなく、
次の資料を用意すると話が進みやすくなります。
・現在の旅館業営業許可証
・許可申請時の施設図面
・現在の客室数と宿泊定員
・変更予定部分が分かる図面
・変更前後を比較できる資料
・新たに始めるサービスの内容
・工事や運用変更の予定時期
変更後の完成図だけでなく、
現在はどうなっているのか。
どこをどう変えたいのか。
を示すことがポイントです。
横浜市で旅館業の変更を相談する場合は、
施設所在地を所管する区福祉保健センター生活衛生課が基本の窓口になります。
旅館業施設は構造設備等の基準を満たす必要があるため、事前相談が案内されています。

今日の実務ワンポイント

変更を考えたら、
次の順番で整理してみましょう。
何を変えるのか
客室、定員、設備、営業者、サービス内容。
どの制度に関係するのか
旅館業、消防、建築、食品衛生、公衆浴場など。
いつ相談するのか
契約、工事発注、予約販売、運用変更の前。
👉「何の届出を出すか」より先に、「どの制度に関係するか」を確認する。
ことが大切です。

まとめ

旅館・ホテルの営業内容を変える場合、
すべてが同じ変更届で済むわけではありません。
施設名や申請事項の変更。
客室や間取りの変更。
宿泊定員の変更。
厨房や飲食提供の開始。
大浴場などの新設。
営業者の変更。
それぞれで、
確認する制度や必要な手続が異なります。
特に大切なのは、
👉変更してから届け出るのではなく、変更を計画した段階で相談すること
です。
工事を始める前。
設備を購入する前。
OTAで販売する前。
事業譲渡の契約を成立させる前。
に確認することで、
追加工事や営業計画の見直しを減らしやすくなります。
小さな変更に見える場合ほど、
自己判断せず、現在の許可内容と図面を確認しましょう。

今日のチェックポイント

□ 現在の旅館業営業許可証を確認している
□ 許可申請時の施設図面を保管している
□ 現在の客室数と宿泊定員を把握している
□ 変更前後を比較できる資料を用意している
□ 客室を増やす前に保健所へ相談している
□ 定員変更前に消防上の収容人数も確認している
□ 間仕切り工事前に消防署へ相談している
□ 飲食提供を始める前に食品営業の手続を確認している
□ 営業者の変更と代表者変更を区別している
□ 工事や契約を進める前に必要な手続を整理している
すべてにチェックが付かなくても構いません。
まずは、
変更届で確認すること。
図面を持って相談すること。
別の許可や承継手続を確認すること。
の三つに分けてみましょう。

行政書士田中穂積の視点

旅行業界で37年間、
多くの宿泊施設と関わってきました。
宿泊施設の営業では、
お客様の要望や経営環境に合わせて、
サービスを変えていくことが必要です。
家族客向けに定員を増やしたい。
空いている部屋を客室として活用したい。
朝食を始めたい。
使われていないスペースを有効活用したい。
こうした改善そのものが、
悪いわけではありません。
問題になるのは、
営業上は小さな変更だから。
建物の中だけの工事だから。
予約サイトの表示を変えるだけだから。
と、行政上の確認を後回しにしてしまうことです。
旅館業、消防、建築、食品衛生は、
それぞれ別の基準で確認されます。
行政書士としてお手伝いしたいのは、
変更届を作成することだけではありません。
施設が何を実現したいのかを確認し、
どの窓口へ、どの順番で相談するのかを整理する。
そして、手戻りを減らし、
施設の担当者が宿泊サービスの改善に専念できるようにする。
それが、
旅館・ホテルの変更手続を支援する意味だと考えています。

Q&A|旅館・ホテルの変更届

Q1.客室の家具を入れ替えるだけでも変更届が必要ですか。
A 家具の入替えだけであれば、直ちに旅館業の変更届が必要になるとは限りません。
ただし、ベッド数を増やして宿泊定員を変更する場合や、
間仕切り、避難経路、消防設備などに影響する場合は、事前相談が必要になる可能性があります。

Q2.空いている部屋を客室として使ってもよいですか。
A 現在の許可で客室として認められていない部屋を、自己判断で宿泊に使用することは避けるべきです。
床面積、採光、換気、消防設備、避難経路などを確認する必要があるため、
改修や販売を始める前に保健所と消防署へ相談します。

Q3.法人の代表者が変わった場合も、新しい旅館業許可が必要ですか。
A 同じ法人の代表者変更と、営業者となる法人自体の変更では、必要な手続が異なります。
代表者変更は変更届の対象となる可能性がありますが、別法人への事業譲渡などは
承継承認や新たな許可が関係するため、契約前に確認することが大切です。

次回予告

次回は、
近隣トラブルで苦しむ宿の特徴とクレーム対応
について考えてみたいと思います。
旅館・ホテルを営業していると、
宿泊者の話し声。
深夜の出入り。
路上駐車。
喫煙。
ごみ出し。
送迎車両。
などについて、
近隣から意見や苦情が寄せられることがあります。
開業前に配慮していても、
すべてのトラブルを防げるとは限りません。
大切なのは、
苦情を誰が受けるのか。
最初に何を確認するのか。
どのように記録するのか。
宿泊者やスタッフへどう共有するのか。
同じ問題を繰り返さないために何を変えるのか。
を決めておくことです。
次回は、
開業前の近隣対策ではなく、
👉営業開始後に苦情が発生した場合の初動と再発防止
について、旅行業37年の経験と行政書士としての視点から整理します。

\ 旅館・ホテルの開業後の運営を見直したい方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
旅館業許可やホテル開業支援だけでなく、
開業後の運営や法令対応についてもご相談を承っています。
例えば、
・客室や設備変更時の手続確認
・宿泊定員や営業内容の変更届
・消防署、保健所への事前相談
・旅館業許可内容と現在の運営状況の確認
・宿泊者名簿や各種運営書類の整備
など、施設の状況に応じて支援内容を整理します。
旅館・ホテルは、
建物の規模、設備、営業内容、必要な調査や届出が施設ごとに異なります。
そのため、当事務所では、
ご相談内容と必要な支援を確認したうえで、
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この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積

横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。