補助金ありきで宿・古民家再生を始めると失敗する理由|第2話

補助金ありきで宿・古民家再生を始めると失敗する理由|第2話

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
観光・宿泊事業者が補助金を探すときに確認したいこと
として、
何をしたいのか。
どこで事業をするのか。
誰が申請するのか。
何にお金を使いたいのか。
いつ実施したいのか。
を整理してから、自分の事業に合う補助制度を探すことが大切だとお伝えしました。
では、使えそうな補助金が見つかったら、その制度を前提に事業を進めてもよいのでしょうか。
ここで注意したいのが、
👉 「補助金があるから、この事業を始める」という順番にしないこと
です。

今回は、宿泊施設の開業や古民家再生で、補助金ありきの計画がなぜ危険なのかを整理します。

補助金は「事業を始める理由」ではない

たとえば、
「古民家再生に使えそうな補助金がある」
と分かったとします。
すると、
「補助金が出るなら、この古民家を買おう」
「改修費の一部が補助されるなら、宿を始めよう」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、本来確認したいのはその前です。
その場所で宿泊事業が成り立つのか。
必要な許可を取得できるのか。
改修にいくらかかるのか。
開業後に売上を確保できるのか。
そして、
補助金がなくても事業を続けられる計画になっているのか。
補助金は事業を支える手段の一つです。
事業そのものの採算性や実現可能性の代わりにはなりません。

申請すれば必ずもらえるわけではない

まず知っておきたいのは、
補助金は申請すれば必ず受けられるものではない
ということです。
制度によって審査があり、応募が多ければ採択されないこともあります。
また、採択されたとしても、申請した金額のすべてがそのまま補助されるとは限りません。
中小企業庁の案内でも、補助金には審査があり、申請すれば必ず支給されるものではないことが示されています。
つまり、
「補助金300万円が入る予定だから、この事業は成り立つ」
という資金計画は危険です。
補助金が採択されなかった場合でもどうするのか。
そこまで考えておく必要があります。

「採択」と「交付決定」は同じではない

補助金では、
「採択された」
という言葉をよく聞きます。
しかし、ここにも注意点があります。
一般的な流れでは、
申請

審査

採択

交付申請

交付決定

事業実施

実績報告

補助金の支払い
という段階を踏みます。
制度によって手続は異なりますが、採択された時点で自由に工事や発注を始めてよいとは限りません。
中小企業庁の案内でも、採択後に交付申請を行い、その内容が認められて交付決定となる流れが示されています。
補助金を利用するときは、
👉 「採択されたか」だけではなく、それが交付されることを前提とした場合に
「いつから事業を始められそうか」を確認することが重要です。

補助金は原則として後から入ってくる

もう一つ、大きな勘違いが起きやすいのが入金時期です。
補助金の多くは、
先に補助金を受け取って、そのお金で工事をする融資のような
仕組みではありません。
原則として、
事業者が先に支払い

事業を完了

実績報告

内容の確認

👉補助金の入金
という流れになります。
中小企業支援機関のJ-Net21でも、補助金・助成金は原則として後払いであり、受け取るまでの資金を自己資金や借入などで準備する必要があると説明されています。
たとえば、
改修工事 1,000万円
補助金 500万円
という計画でも、
最初から500万円だけ準備すればよいとは限りません。
一時的には、工事代金などを支払うための資金を確保する必要があります。
👉 補助金があることと、手元のお金(事業資金)の穴埋めとは別の問題です。

補助されない部分は自分で負担する

補助金には、
「補助率」

「補助上限額」
があります。
また、すべての支出が補助対象になるわけではありません。
たとえば古民家宿を開業するとしても、
建物改修。
消防設備。
厨房設備。
家具・備品。
広告。
設計。
物件取得。
人件費。
など、さまざまな費用が発生します。
しかし、そのすべてが一つの補助金の対象になるとは限りません。
補助対象になるもの。
対象にならないもの。
自己負担するもの。
別に資金を用意するもの。
に分けて考える必要があります。
中小企業庁も、補助金は必ずしも事業経費の全額を補助するものではなく、対象経費や補助割合、上限額を事前に確認するよう案内しています。

契約や工事を先に進めると対象外になることもある

古民家再生では特に気を付けたいところです。
良い物件が見つかると、
「早く工事業者を押さえたい」
「まず設計を頼みたい」
「設備を発注しておこう」
と考えたくなります。
しかし、補助制度によっては、
👉交付決定前に契約、発注、購入、工事などを行った経費が補助対象にならない
場合があります。
観光庁の補助事業でも、交付決定前の発注・購入・契約等について、一定の場合を除き補助対象外とする取扱いがあります。
つまり、
補助金申請。
物件契約。
設計。
工事契約。
設備発注。
許認可。
開業日。
これらのスケジュールを別々に考えるのではなく、一つの時間軸に並べて確認する必要があります。

一番怖いのは「補助金は取れた。でも宿が開けない」

資金面だけでなく、古民家宿ではもう一つ重要な問題があります。
それが、
許認可です。
古民家を宿泊施設として活用する場合、
旅館業許可。
建築関係の確認。
消防設備。
用途や構造。
給排水。
地域によっては条例など。
さまざまな条件が関係します。
飲食を提供するのであれば、飲食店営業許可などが関係する場合もあります。
これらについては過去の記事でも詳しく扱ってきましたので、ここでは繰り返しません。
今回伝えたいのは、
👉 補助金の対象になることと、その物件で宿泊事業ができることは別
ということです。
改修に使える補助制度が見つかったとしても、
必要な許可が取得できなければ、本来考えていた事業はできません。
だからこそ、
「補助金があるから物件を決める」
ではなく、
👉物件・許認可・改修・資金を同時に確認する
必要があります。

補助金がなくても成り立つ計画かを考える

では、補助金を使わないほうがよいのでしょうか。
そういうことではありません。
自分の事業に合う制度があれば、補助金は大きな助けになります。
大切なのは、
補助金を前提にしすぎないこと
です。
たとえば、
補助金が採択されなかった場合。
補助額が想定より少なかった場合。
入金が予定より後になった場合。
追加工事が発生した場合。
こうしたケースでも事業を続けられるか考えておきます。
補助金を、
「なければ事業が成立しないお金」
ではなく、
「事業をより良くするために活用する資金」
として位置付けられると、計画に余裕が生まれます。

今日の実務ワンポイント

使いたい補助金が見つかったら、
一度その補助金を計画から外してみてください。
そして、
「この補助金がなかったら、この事業をどうするか?」
を考えます。
・自己資金で対応する
・融資を検討する
・改修内容を見直す
・開業時期をずらす
・事業規模を小さくする
・物件そのものを再検討する
こうした選択肢があるか確認します。
補助金がなくなった瞬間に計画全体が止まってしまうのであれば、
事業計画そのものをもう一度確認したほうがよいかもしれません。

まとめ

宿泊施設の開業や古民家再生では、補助金が有力な資金調達手段になることがあります。
しかし、
採択されるとは限らない。
全額が補助されるわけではない。
原則として後払い。
契約や発注の時期にも注意が必要。
補助対象外の経費もある。
そして、許認可が取れなければ事業そのものを始められない。
こうした点を考えると、
最初に考えるべきなのは、
「どの補助金を取るか」
ではありません。
👉 補助金がなくても成立する事業を考え、そのうえで自分の計画に合う補助金を活用することが大切です。

今日のチェックポイント

次の項目を確認してみましょう。
□ 補助金が採択されない場合も想定している
□ 補助金の自己負担額を把握している
□ 補助金がいつ入金されるか確認している
□ 入金までの資金を準備できるか考えている
□ 補助対象経費と対象外経費を確認している
□ 契約・発注・工事を始められる時期を確認している
□ 物件取得を補助金だけで判断していない
□ 必要な許認可を確認している
□ 補助金がなくても事業を続けられるか考えている
すべてにチェックが付かなくても問題ありません。
まずは、
「補助金がなかった場合、この計画はどうなるか」
を一度確認してみましょう。

行政書士田中穂積の視点

私は旅行業界で37年間、旅行や宿泊に関わる仕事をしてきました。
観光・宿泊事業では、
「良い施設をつくればお客様が来る」
というだけではありません。
立地。
客層。
宿泊料金。
稼働率。
改修費。
人件費。
そして開業後の運転資金。
こうしたものがつながって、初めて事業として続いていきます。
行政書士になった現在は、そこにさらに、
旅館業許可。
消防。
建築。
飲食店営業許可。
行政との事前相談。
といった手続の視点が加わります。
古民家宿を考えるときも、
「補助金が使えそうです」
だけで判断するのではなく、
この物件で予定している事業ができるのか。
必要な改修はいくらなのか。
資金をどう準備するのか。
を早い段階で整理することが重要だと考えています。
補助金の相談をきっかけに
👉「その前に確認しておいたほうがよいことが分かった」
ということもあります。
事業を始める前だからこそ整理できることがあります。

Q&A|補助金ありきで宿・古民家再生を始めると失敗する理由

Q1.補助金が採択されたら、すぐ工事を始めてもよいですか?
必ずしもそうとは限りません。
補助金では「採択」と「交付決定」が別の手続になっている制度があります。
交付決定前の契約や発注、工事などが補助対象外になる場合もあるため、必ずその制度の最新の公募要領や交付規程を確認してください。
Q2.補助金が後払いなら、改修費はどう準備すればよいですか?
自己資金で準備する方法のほか、金融機関からの融資などを組み合わせる方法があります。
重要なのは、補助金の入金だけを見ず、
工事代金をいつ支払い、補助金がいつ入ってくるのか
を時系列で確認することです。
補助金と融資を組み合わせる資金計画については、第6話で詳しく整理します。
Q3.補助金申請と旅館業許可の確認は、どちらを先にすればよいですか?
一律にどちらが先とは言えません。
ただし、少なくとも物件購入や大規模な改修工事を決める前に、
その場所・建物で予定している宿泊事業が可能か
を確認しておくことは重要です。
補助金、許認可、物件、工事を別々に進めるのではなく、全体のスケジュールを見ながら整理することをおすすめします。

次回予告

補助金ありきで事業を始めるのは危険。
そう分かっても、
「では、宿泊施設や観光事業では、どんなことに補助金を使えるの?」
という疑問が出てくると思います。
次回は、
宿泊施設・旅館で使える補助金とは|改修・省力化など目的別に整理|第3話
として、
・建物・客室の改修
・省力化
・DX
・バリアフリー
・インバウンド対応
・多言語化
・地域資源活用
・古民家・空き家再生
・販路開拓
・観光コンテンツ
など、
制度名ではなく「何に使いたいか」という目的別に整理します。
👉 次回は、自分の事業にはどの分野の補助制度が関係しそうなのかを見つけるための整理をしていきます。

\ 観光・宿泊・古民家再生の資金計画を整理したい方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
旅館業許可や宿泊施設の開業支援だけでなく、
観光事業や古民家・空き家活用について、
事業計画・資金計画・必要な許認可を一体で整理する支援を行っています。
例えば、
・これから始める事業内容の整理(旅行業、宿泊業、飲食業、民泊)
・利用を検討する補助制度の確認
・補助金申請に向けた事業計画の整理
・開業までに必要となる許認可の確認
・旅館業許可
・飲食店営業許可
・保健所、消防署などへの事前相談
・申請や開業準備に必要な書類の整理
など、現在の計画段階に応じて必要な手続を整理します。
観光・宿泊、飲食・古民家活用では、
物件、改修、資金、許認可、開業時期
がそれぞれ別々ではなく、互いに関係しています。
そのため当事務所では、
「使える補助金があるか」だけを見るのではなく、
ご相談内容や事業計画を確認したうえで、開業までに何を、どの順番で進める必要があるのかを整理しています。
補助金は採択を保証するものではなく、融資についても金融機関による審査・判断があります。
また、制度によって行政書士が対応できる支援範囲は異なります。
税務、融資判断、建築設計、労務など他の専門分野が関係する場合には、
必要に応じて各専門家との連携も検討しながら進めます。
👉 補助金を探す前に、まず自分の事業と必要な資金・手続を整理するところから始めてみませんか。

▼ 関連ページはこちら
旅館業許可・ホテル開業支援
相談から正式依頼までの流れ
お問い合わせフォーム
横浜市泉区・中田駅周辺の事業者様はもちろん、
オンライン相談により全国の観光・宿泊・飲食事業者、古民家・空き家活用を
検討されている方からのご相談にも対応しています。

クイズ!補助金ありきで宿・古民家再生を始めると失敗する理由

読み込み中…

前回 観光・宿泊事業者が補助金を探すときに確認したいこと|第1話
次回 宿泊施設・旅館で使える補助金とは|改修・省力化など目的別に整理|第3話

この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積

横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。