近隣トラブルで苦しむ宿の特徴とクレーム対応|第16話

~苦情が入ったときの初動と再発防止を整える~
こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、
「旅館・ホテルの変更届|客室・定員・設備を変える前に確認したいこと」
について考えました。
旅館・ホテルの営業内容を変える場合は、
変更してから届け出るのではなく、
工事を始める前。
設備を購入する前。
予約サイトで販売する前。
営業者を変更する契約を結ぶ前。
に、必要な手続を確認することが大切です。
今回は、
「近隣トラブルで苦しむ宿の特徴とクレーム対応」
について考えます。
旅館・ホテルを営業していると、
宿泊者の話し声。
深夜の出入り。
路上駐車。
喫煙。
ごみ出し。
送迎車両。
などについて、
近隣から意見や苦情が寄せられることがあります。
開業前に十分な対策を行っていても、
すべてのトラブルを防げるとは限りません。
大切なのは、
👉苦情が入ったときに、誰が何を確認し、どう対応するかを決めておくこと
です。
近隣トラブルで苦しむ宿には共通点があります
近隣トラブルが繰り返される宿では、
問題そのものよりも、
苦情を受けた後の対応に課題があることがあります。
例えば、
誰が苦情を受けるのか決まっていない。
担当者によって説明が違う。
宿泊者の行動だから仕方がないと考える。
謝罪だけで終わり、記録を残さない。
スタッフへ共有されない。
予約サイトや館内案内を直さない。
同じ問題が繰り返されても原因を確認しない。
という状態です。
一度の苦情であれば、
相手も事情を理解してくれることがあります。
しかし、同じ問題が何度も続くと、
話を聞いてくれない宿。
改善する気がない宿。
地域の生活を軽く考えている宿。
という印象につながります。
👉近隣トラブルを大きくするのは、問題の発生だけでなく、その後の対応です。
最初に行うのは反論ではなく事実確認です
苦情を受けたとき、
施設側にも言い分があるかもしれません。
宿泊者がしたことなので分からない。
うちの駐車場ではない。
営業時間内の出来事である。
一度だけのことだと思う。
しかし、最初から反論すると、
近隣の方は、
話を聞いてもらえない。
責任を避けている。
と感じる可能性があります。
まず確認したいのは、
いつ起きたのか。
どこで起きたのか。
何が問題だったのか。
どのくらい続いたのか。
宿泊者や車両を特定できるか。
現在も続いているのか。
という事実です。
その場で判断できない場合は、
「状況を確認し、改めてご連絡します」
と伝えます。
👉その場で結論を出すより、正確な事実確認を優先することが大切です。
苦情を受けた人が一人で抱え込まない
フロント担当者や夜間スタッフが、
近隣から直接苦情を受けることがあります。
しかし、現場の職員が一人で、
謝罪するか。
宿泊者へ注意するか。
返金するか。
警察へ連絡するか。
を判断するのは負担が大きくなります。
そこで、
最初に受ける人。
責任者へ報告する基準。
夜間や休日の連絡先。
宿泊者への対応を判断する人。
近隣へ回答する人。
を決めておきます。
例えば、
騒音や喫煙は当直責任者。
路上駐車や送迎車両は施設管理者。
事故や危険がある場合は警察・消防。
というように、
内容に応じた連絡先を整理します。
担当者が不在の場合の代行者も必要です。
その場で止められる問題には応急対応を行う
苦情の原因が現在も続いている場合は、
記録より先に応急対応を行います。
例えば、
屋外で騒いでいる宿泊者へ声をかける。
路上駐車している車両を移動してもらう。
指定場所以外での喫煙をやめてもらう。
ごみが散乱していれば回収する。
送迎車両の待機場所を変更する。
といった対応です。
ここで大切なのは、
宿泊者へ感情的に注意することではありません。
施設の利用ルール。
近隣への配慮。
安全上の理由。
を落ち着いて説明します。
外国人宿泊者が多い施設では、
多言語の注意表示や案内文も用意しておくとよいでしょう。
👉今起きている問題を止めることと、後から原因を調べることを分けて考えます。
苦情の内容と対応を記録する
近隣トラブルへの対応で、
特に重要なのが記録です。
口頭で謝罪し、
その場では収まったように見えても、
記録がなければ次の担当者へ引き継げません。
記録しておきたいのは、
・苦情を受けた日時
・相手の氏名と連絡先
・発生した場所
・苦情の内容
・対象となる宿泊者や車両
・その場で行った対応
・宿泊者へ説明した内容
・近隣へ回答した内容
・対応したスタッフ
・今後必要な改善
です。
相手が氏名を伝えたくない場合もあります。
その場合でも、
何月何日。
何時頃。
どの場所から。
どのような内容の連絡があったか。
は残します。
👉苦情記録は責任追及のためではなく、同じ問題を繰り返さないために残します。
スタッフ間で共有しなければ再発を防げません
夜間スタッフが受けた苦情を、
翌日の責任者が知らない。
同じ宿泊者に別のスタッフが対応している。
以前にも同じ場所で苦情があったが、
記録を確認していない。
という状態では、改善につながりません。
共有するときは、
苦情を言った人の人格。
宿泊者への感情的な評価。
スタッフ個人への批判。
ではなく、
何が起きたのか。
何をしたのか。
次回から何を変えるのか。
を客観的に伝えます。
また、個人情報を必要以上に共有しないことも重要です。
施設全体で共有する内容と、
管理者だけが確認する内容を分けておきます。
宿泊者への注意だけで終わらせない
近隣トラブルが起きると、
宿泊者のマナーが悪かった。
今回は特殊な客だった。
注意したので次は大丈夫。
と考えがちです。
しかし、同じ問題が起きる背景には、
施設側の案内不足があるかもしれません。
例えば、
予約時に駐車場所を案内していない。
チェックイン時に夜間のルールを伝えていない。
喫煙場所が分かりにくい。
ごみの出し方が多言語で表示されていない。
送迎車両の待機場所が決まっていない。
屋外スペースの利用時間が曖昧。
というケースです。
宿泊者へ注意するだけでなく、
予約確認メール。
OTAの施設案内。
自社サイト。
チェックイン時の説明。
館内表示。
利用規約。
を見直します。
👉宿泊者の行動を変えてもらうには、施設側の案内方法も変える必要があります。
苦情が繰り返される時間と場所を確認する
記録を残していくと、
トラブルが起きやすい傾向が見えてきます。
例えば、
金曜・土曜の深夜に多い。
玄関前での会話が問題になる。
駐車場の入口で車が滞留する。
チェックアウト後にごみが残る。
送迎車両が朝の通勤時間と重なる。
といった傾向です。
この場合、
夜間のスタッフ配置を変える。
玄関前に長時間滞在しないよう案内する。
到着時間を分散させる。
送迎場所を変更する。
防音や照明を見直す。
といった再発防止策が考えられます。
問題が起きるたびに個別対応するのではなく、
時間・場所・宿泊者層などの傾向を見ることが大切です。
設備や営業方法の見直しが必要な場合もあります
近隣トラブルは、
スタッフの声かけだけでは解決できないことがあります。
例えば、
客室の窓から声が漏れる。
喫煙場所が住宅に近い。
ごみ置場の位置が悪い。
送迎車両が道路をふさぐ。
看板や照明が近隣住宅へ向いている。
という場合です。
このような場合は、
防音設備。
窓や扉。
ごみ置場。
駐車場・乗降場所。
照明。
屋外スペースの利用方法。
の見直しが必要です。
設備変更によっては、
消防、建築、旅館業許可の内容に関係する可能性もあります。
そのため、工事を行う前に、
必要な行政確認を行います。
警察や行政へ相談すべき場面を決めておく
すべての苦情を施設内だけで解決できるとは限りません。
例えば、
宿泊者と近隣住民の間で激しい口論になった。
車両が道路をふさいで危険がある。
器物損壊や暴力のおそれがある。
不法侵入や迷惑行為が続いている。
火災や事故の危険がある。
という場合は、
警察や消防などへの連絡を検討します。
また、施設の構造や営業方法に関する問題であれば、
保健所や消防署への相談が必要になることもあります。
スタッフが連絡をためらわないよう、
どのような場合に。
誰が。
どこへ。
連絡するかを決めておきます。
今日の実務ワンポイント
過去半年から一年の間に受けた近隣からの意見や苦情を、
一度書き出してみましょう。
その横に、
発生した時間。
発生場所。
問題の内容。
その場で行った対応。
その後に変更したこと。
を記載します。
同じ時間、同じ場所、同じ内容が繰り返されていれば、
個別対応ではなく運営方法の見直しが必要です。
👉苦情を一件ずつ見るのではなく、傾向として確認することが再発防止につながります。
まとめ
旅館・ホテルを営業していれば、
近隣から意見や苦情を受ける可能性があります。
大切なのは、
苦情を一度も受けないことだけではありません。
苦情を受けたときに、
相手の話を聞く。
事実を確認する。
現在起きている問題を止める。
対応内容を記録する。
スタッフへ共有する。
施設の案内や運営方法を見直す。
という流れを整えることです。
特に重要なのは、
👉宿泊者へ注意して終わるのではなく、同じ問題が起きにくい施設運営へ変えること
です。
近隣からの声を、
単なる迷惑なクレームとして扱うのではなく、
宿の運営を見直す材料として受け止める。
その積み重ねが、
地域の中で安心して営業を続けられる宿につながります。
今日のチェックポイント
□ 近隣からの苦情を受ける担当者を決めている
□ 夜間・休日の責任者と代行者を決めている
□ 苦情を受けたときの確認項目を決めている
□ 現在続いている問題への応急対応を決めている
□ 苦情と対応内容を記録している
□ スタッフ間で必要な情報を共有している
□ 予約時・チェックイン時の案内を見直している
□ 駐車・喫煙・ごみ・夜間利用のルールを明示している
□ 同じ苦情が繰り返されていないか確認している
□ 警察や消防へ連絡する基準を決めている
すべてにチェックが付かなくても構いません。
まずは、
誰が受けるのか。
何を記録するのか。
何を改善するのか。
の三つから決めてみましょう。
行政書士田中穂積の視点
旅行業界で37年間、
多くの宿泊施設と旅行者を見てきました。
近隣トラブルが起きたとき、
宿泊者だけを責めても、
問題が解決しないことがあります。
宿泊者は、その土地の道路事情や生活時間、
地域独自のルールを知らないことがあるからです。
そのため、施設側には、
予約前に伝える。
到着時に説明する。
館内で分かりやすく示す。
問題が起きたときにすぐ対応する。
という役割があります。
一方で、近隣からの要望をすべて受け入れればよいわけでもありません。
事実を確認し、
施設として対応できることと、
難しいことを整理し、
丁寧に説明する必要があります。
行政書士としてお手伝いしたいのは、
苦情への回答文を作ることだけではありません。
施設の利用規約。
近隣対応の手順。
苦情記録。
スタッフ向けの対応フロー。
設備や営業内容を変更する場合の行政確認。
を整え、
施設の担当者が毎回その場で悩まなくてよい状態をつくることです。
宿泊者にも地域住民にも配慮しながら、
安心して営業を続けられる仕組みを作る。
それが、開業後の旅館・ホテル支援で大切だと考えています。
Q&A|近隣トラブルとクレーム対応
Q1.匿名の苦情でも記録した方がよいですか。
A 匿名の場合でも、発生日時、場所、内容、施設が行った対応は記録しておくことが大切です。
同じ内容が繰り返されていないかを確認する資料になります。
Q2.宿泊者が原因であれば、施設に責任はないのではありませんか。
A 個別の法的責任は状況によって異なります。
ただし、施設には利用ルールを案内し、問題が起きたときに適切に対応し、再発を防ぐ運営が求められます。宿泊者だけの問題として終わらせないことが重要です。
Q3.近隣への説明文や館内ルールの整備だけでも相談できますか。
A 個別のご相談も可能です。
現在の苦情内容や施設の運営状況を確認し、近隣対応の手順、宿泊者への案内、記録様式、必要な行政相談などを整理します。
次回予告
次回は、
「地域と共に生きる宿だけが長く続く理由」
について考えてみたいと思います。
近隣トラブルを防ぎ、
苦情へ適切に対応することは、
地域で営業を続けるために欠かせません。
しかし、
迷惑をかけない。
苦情を起こさない。
というだけでは、
地域から応援される宿にはなりません。
宿泊客が地域の飲食店や商店を利用する。
地元の食材や商品が宿の営業に生かされる。
地域の雇用や事業者との取引につながる。
地域住民にも宿の役割や取組が伝わる。
行政や観光関係者と地域の課題を共有する。
このように、
宿泊によって生まれる利益を、
宿の中だけにとどめないことが大切です。
一方で、宿泊客の増加によって、
人や車の出入り。
混雑。
騒音。
地域住民の不安。
といった負担が生じることもあります。
次回は、
👉旅館・ホテルが地域へ負担だけを残さず、地域住民・地元事業者・行政と価値を分かち合うには何が必要か
について、旅行業37年の経験と行政書士としての視点から整理します。
\ 旅館・ホテルの開業後の運営を見直したい方へ /
行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
旅館業許可やホテル開業支援だけでなく、
開業後の運営や法令対応についてもご相談を承っています。
例えば、
・客室や設備変更時の手続確認
・宿泊定員や営業内容の変更届
・消防署、保健所への事前相談
・旅館業許可内容と現在の運営状況の確認
・宿泊者名簿や各種運営書類の整備
・近隣対応の手順や記録様式の整備
など、施設の状況に応じて支援内容を整理します。
旅館・ホテルは、
建物の規模、設備、営業内容、必要な調査や届出が施設ごとに異なります。
そのため、当事務所では、
ご相談内容と必要な支援を確認したうえで、
個別にお見積りをご案内しています。
また、旅館・ホテル事業者の皆さまへ、
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この記事を書いた人 Wrote this article
田中穂積
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。