障害福祉事業所を買う前に何を確認する?M&Aの話|第12話

~M&A・事業譲渡で買い手が見るべき指定・人員・加算~
こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、
「障害福祉事業所は今、何を見直すべき?」
として、
加算の属人化。
特定職員への依存。
後追いになった記録。
事業拡大に追いつかない管理。
利用者より数字が先になる運営。
という5つの危険信号を取り上げました。
今回は少し視点を変えて、
障害福祉事業所の買収・事業譲受を検討している方
に向けた内容です。
障害福祉分野でも、
M&A
事業譲渡
合併
事業承継
によって事業所を引き継ぐ場面があります。
売上もある
利用者もいる
職員も残る
利益も出ている
一見すると、
「このまま引き継げば運営できそうだ」
と思うかもしれません。
しかし、
障害福祉事業所の場合、
👉会社を買うことと、指定事業所をそのまま引き継げることは同じではありません。
買い手側が本当に確認したいのは、
「この会社は儲かっているか」
だけではなく、
「この事業所は、引き継いだ後も適正に運営できる状態なのか」
です。
今回は、
👉 買う前に見ておきたい指定・人員・加算など、障害福祉事業所特有の確認ポイント
を整理します。
- 1. 決算書だけでは、障害福祉事業所の本当の状態は分からない
- 2. まず確認したいのは「指定はどうなるのか」
- 3. 「職員もそのまま残るから大丈夫」とは限らない
- 4. 加算は「売上」として見るだけでは危険
- 5. 一番怖いのは「過去の運営」
- 6. 「利用者がいる」ことも、そのまま価値とは限らない
- 7. M&Aの前に最低限確認したい7項目
- 8. 今日の実務ワンポイント
- 9. まとめ
- 10. 今日のチェックポイント
- 11. 行政書士田中穂積の視点
- 12. Q&A|障害福祉事業所のM&A・事業譲渡
- 13. 次回予告
- 14. \ 障害福祉事業のM&A・事業譲渡を検討している方へ /
- 15. クイズ!障害福祉事業所のM&Aで何を見る?
決算書だけでは、障害福祉事業所の本当の状態は分からない
一般的なM&Aでは、
売上
利益
借入
資産
負債
契約
などが重要な確認事項になります。
もちろん、障害福祉事業でもそれらは大切です。
しかし、
それだけでは足りません。
なぜなら障害福祉事業は、
行政から指定を受けて運営する事業
だからです。
確認すべきなのは、
会社そのものだけではありません。
事業所ごとの指定。
人員配置
設備
運営規程
加算
届出
請求
記録
行政とのやり取り
まで見なければ、
実際に引き継いだ後に何が起きるか分かりません。
👉 「会社のデューデリジェンス(買収監査)」だけでなく、「指定事業所のデューデリ」が必要。
これが障害福祉M&Aの大きな特徴です。
まず確認したいのは「指定はどうなるのか」
障害福祉サービスを提供できるのは、
指定を受けた事業者です。
そのため、
事業譲渡
合併
法人変更
などの方法によっては、
新たな指定申請が必要になることがあります。
厚生労働省も、合併・事業譲渡等に伴う障害福祉サービス事業者の指定手続について簡素化を進めていますが、これは「何もしなくても自動的に指定が引き継がれる」という意味ではありません。厚生労働省
ここで最初に確認したいのは、
「今回のM&Aスキームでは、現在の指定をどう扱うのか」
です。
株式譲渡なのか
事業譲渡なのか
合併なのか
法人そのものが変わるのか
によって、行政手続の考え方は変わります。
👉 契約を進める前に、指定権者へ確認する。
障害福祉事業では、この順番が非常に重要です。
「職員もそのまま残るから大丈夫」とは限らない
次に見るのは、
人員です。
例えば、
管理者
サービス管理責任者
児童発達支援管理責任者
その他の必要職種
が現在配置されているとします。
だからといって、
買収・譲渡後も同じ状態が続くとは限りません。
M&Aをきっかけに退職する
勤務条件が変わる
兼務関係が変わる
所属法人が変わる
こうしたことが起これば、
人員基準や加算に影響する可能性があります。
重要なのは、
「今、人がいるか」
だけではありません。
👉 M&Aの後も、その人員体制が成立するのか。
です。
契約前に、
誰が残るのか。
誰が退職予定なのか。
資格・研修要件は満たしているか。
勤務時間は変わらないか。
兼務はどうなるか。
まで確認しておきたいところです。
加算は「売上」として見るだけでは危険
次に、
加算です。
障害福祉事業所の売上を見ると、
基本報酬だけではなく、
さまざまな加算が含まれています。
ここで、
「この事業所は毎月これだけ売上がある」
だけを見るのは危険です。
確認したいのは、
その売上を支えている加算が、
なぜ算定できているのか。
です。
例えば、
特定の人員配置が必要な加算
研修や会議が必要な加算
個別の支援記録が必要な加算
体制届が必要な加算
があります。
M&A後に、
必要な職員が辞める
体制が変わる
運用方法が変わる
となれば、
今まで算定していた加算がそのまま続くとは限りません。
👉 売上を見るなら、「基本報酬」と「加算」を分けて見る。
さらに、
その加算がM&A後も本当に算定できるのか
まで確認する必要があります。
一番怖いのは「過去の運営」
買った後から、
「実は昔の請求に問題があった」
と分かったらどうでしょう。
例えば、
人員基準を満たしていない時期があった。
加算要件を満たしていなかった。
届出と実態が違っていた。
記録が不足していた。
行政から過去に指摘を受けていた。
返還や過誤調整が必要な可能性がある。
こうした問題は、
決算書だけでは見えないことがあります。
だからこそ、
障害福祉事業所のM&Aでは、
現在だけではなく、
過去の運営履歴を見る
ことも重要です。
確認したいのは、
運営指導の結果。
改善報告。
行政とのやり取り。
変更届。
体制届。
過去の加算。
請求状況。
などです。
👉 「今は問題ない」ではなく、「ここまでどう運営してきたか」。
ここまで見て初めて、
事業所の実態が見えてきます。
「利用者がいる」ことも、そのまま価値とは限らない
利用者が多い。
稼働率が高い。
待機者がいる。
これも魅力的に見えます。
しかし、
まずその前に一度確認したいことがあります。
その利用者は、
なぜこの事業所を利用しているのでしょうか。
支援内容を評価しているのか。
職員との関係なのか。
立地なのか。
紹介元との関係なのか。
M&Aによって、
管理者や職員が変われば、
利用者や家族が不安を感じることもあります。
障害福祉事業では、
数字だけではなく、
人との関係そのものが事業価値になっている
場合があります。
だから、
「利用者が何人いるか」
だけではなく、
その利用がM&A後も継続する理由があるか
も見たいところです。
M&Aの前に最低限確認したい7項目
ここまでを整理します。
障害福祉事業所を買う、譲り受ける、統合する前に、
最低限、
次の7つは確認したいところです。
1. 指定
今の指定はどう扱われるのか。
新規指定が必要なのか。
行政への事前相談は済んでいるか。
2.人員
必要職種はそろっているか。
M&A後も残るのか。
資格・研修要件は問題ないか。
3.加算
何を算定しているか。
根拠はあるか。
M&A後も継続できるか。
4.届出
変更届・体制届は適正に提出されているか。
5.請求
過去の請求に問題はないか。
返還・過誤の可能性はないか。
6.運営
運営規程・支援記録・研修・委員会などが実態と合っているか。
7.行政対応
過去の運営指導や指摘事項、改善状況はどうなっているか。
👉 この7項目を確認せずに、「利益が出ているから買う」は危険です。
今日の実務ワンポイント
M&Aの相談をするとき、
「この会社を買って大丈夫ですか?」
だけではなく、
こう聞いてみてください。
「この事業所は、M&A後も今と同じように指定・人員・加算・請求を維持できますか?」
この質問に変えるだけで、
確認すべきものが大きく変わります。
障害福祉事業では、
会社の価値と、
指定事業所としての価値を、
分けて見る必要があります。
まとめ
障害福祉事業のM&Aや事業譲渡では、
売上
利益
利用者数
だけでは、
本当のリスクは分かりません。
重要なのは、
指定
人員
加算
届出
請求
記録
行政対応
です。
そして、
M&A後も、
それらがきちんと続くのか。
ここまで確認して初めて、
「引き継げる事業所」
と言えるのではないでしょうか。
👉 障害福祉M&Aで見るべきなのは、会社だけではありません。指定事業所としての“中身”です。
契約を結んでから気づくのではなく、
契約前に確認する。
これが一番大切です。
今日のチェックポイント
□ M&Aの方法と指定への影響を確認した
□ 指定権者への事前相談が必要か確認した
□ 必要な職員がM&A後も残るか確認した
□ 現在算定している加算を把握した
□ 加算の根拠資料を確認した
□ 過去の届出・請求に問題がないか確認した
□ 運営指導・改善報告等の履歴を確認した
□ 利用者・職員への影響を確認した
一つでも不明なものがあるなら、
契約前に確認しておきたいところです。
行政書士田中穂積の視点
障害福祉事業のM&Aを見るとき、
どうしても、
会社
契約
価格
に目が向きます。
しかし、
行政書士の立場から見ると、
もう一つ重要なものがあります。
それが、
👉「行政上、その事業所がどのような状態にあるか」
です。
指定は有効か
届出は適正か
人員は合っているか
加算は正しく算定されているか
運営規程と実態は一致しているか
行政から指摘を受けていないか
これらは、
財務諸表だけを見ても分かりません。
だからこそ、
障害福祉事業のM&Aでは、
財務・法務だけでなく、
許認可・指定・運営実務の確認
も一体で考える必要があると思います。
行政書士として、
事業を引き継いだ後に問題が見つかるのではなく、
引き継ぐ前に行政手続上のリスクを見つける。
ここに支援できる余地があります。
Q&A|障害福祉事業所のM&A・事業譲渡
Q1.障害福祉事業所を買えば、指定もそのまま引き継げますか。
M&Aの方法によって扱いが異なります。
株式譲渡のように法人自体が変わらない場合と、事業譲渡や合併などで事業主体が変わる場合では、指定に関する手続も異なります。
厚生労働省は合併・事業譲渡等に伴う指定申請の手続簡素化を進めていますが、具体的な手続は指定権者への事前確認が重要です。
Q2.現在取っている加算はM&A後もそのまま取れますか。
必ずしも同じとは限りません。
加算によっては、
人員
体制
届出
支援実績
記録
などが算定要件になります。
M&A後の体制が変われば、改めて確認が必要になる場合があります。
Q3.契約前に行政書士へ相談する意味はありますか。
あると思います。
特に、
指定
人員
加算
変更届
運営規程
過去の行政手続
などについては、
契約締結後ではなく、
M&Aを進める前に確認した方がよい事項
があります。
財務・契約面を扱う専門家とも連携しながら、障害福祉事業所特有の行政手続面を整理しておくことが重要です。
次回予告
次回は、
「その障害福祉事業所、今のまま譲って大丈夫?|M&A前に売り手が整理したい指定・届出・引継ぎ|第13話」
について考えます。
今回見てきたのは、
「何を確認すべきか」
でした。
次回はさらに一歩踏み込み、
指定
変更届
加算
人員
運営規程
行政への事前相談。
など、
👉 M&Aの契約前に確認しておかないと、後から修正しにくい行政手続上の落とし穴
に絞って整理します。
「買ってから考えればいい」
では遅いこともあります。
障害福祉M&Aだからこそ必要な、
契約前の行政手続チェック
を見ていきます。
\ 障害福祉事業のM&A・事業譲渡を検討している方へ /
行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
放課後等デイサービス。
児童発達支援。
就労継続支援B型。
共同生活援助(グループホーム)。
などの障害福祉サービス事業について、
M&A・事業譲渡・事業承継に伴う行政手続の整理
についてもご相談を承っています。
障害福祉事業所のM&Aでは、
売上や利益だけでなく、
指定
人員
加算
変更届
運営規程
過去の行政対応
などを確認しておくことが重要です。
特に、
「このスキームで指定はどうなるのか」
「現在の加算は引継ぎ後も算定できるのか」
「サビ管・児発管などの人員体制は維持できるのか」
「契約前に行政へ確認しておくことはないか」
といった点は、
M&Aの契約を進める前に整理しておきたい事項です。
👉 買ってから問題を見つけるのではなく、引き継ぐ前に行政手続上のリスクを確認する。
財務・契約面を扱う専門家とも連携しながら、障害福祉事業所特有の指定・届出・運営実務を整理していきます。
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前回 障害福祉事業所は今、何を見直すべき?|改定前に確認したい5つの危険信号|第11話
次回 その障害福祉事業所、今のまま譲って大丈夫?M&Aの話|第13話
この記事を書いた人 Wrote this article
田中穂積
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。