その障害福祉事業所、今のまま譲って大丈夫?M&Aの話|第13話

その障害福祉事業所、今のまま譲って大丈夫?M&Aの話|第13話

~M&A前に売り手が整理したい指定・届出・引継ぎ~

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
「障害福祉事業所を買う前に何を確認する?」
として、
障害福祉事業所のM&A・事業譲渡を検討する買い手側から、
指定
人員
加算
など、一般的な会社のM&Aだけでは見えにくい確認事項を取り上げました。

今回は反対側から。
👉障害福祉事業所を売却・事業譲渡しようと考えている事業者側
に向けて考えます。
「買い手が決まってから書類をそろえればいい」
「今まで普通に運営できているから問題ない」
と思っていないでしょうか。
しかし、障害福祉事業では、
買い手との交渉が進んでから、
指定内容が分からない。
届出の控えが見つからない。
行政へ何を事前相談すればよいか分からない。
となると、
譲渡スケジュールそのものに影響することがあります。
👉 障害福祉事業所を譲るなら、「売る準備」だけでなく「行政上きれいに引き継げる準備」が必要です。
今回は、売り手側がM&A前に整理しておきたいポイントを見ていきます。

1.まず「今の指定状態」を説明できるようにする

買い手から、
「現在どの指定を受けていますか」
と聞かれたとき、
指定通知書。
更新関係書類。
変更届。
運営規程。
などをすぐに出せるでしょうか。

「行政に出してあるはず」では足りない

長く運営している事業所ほど、
開業当初から、
代表者
管理者
所在地
人員
運営規程
などが変わっていることがあります。
そこで最初に行いたいのが、
現在の運営実態と行政へ届け出ている内容の照合
です。
買い手へ渡す前に、
「現在、行政上どういう状態の事業所なのか」
を売り手自身が説明できる状態にしておきましょう。
👉 M&A準備の第一歩は、会社案内を作ることではなく、指定の現在地を確認することです。

2.行政書類を「探せばある」状態から「渡せる」状態へ

M&Aでは、
買い手や専門家からさまざまな資料を求められます。
その都度、
「あれはどこだったかな」
と探していると、
それだけで交渉が止まります。

引継ぎ用の行政ファイルを作る

例えば、
指定関係。
変更届。
体制届。
運営規程。
行政からの通知。
運営指導関係。
などを、
M&A用に一度まとめておく
とよいでしょう。
ポイントは、
書類を集めることではありません。
最新版がどれか分かる状態にすること
です。
古い運営規程と最新の運営規程が混在している。
同じ変更届が何部もある。
届出済みか分からない書類がある。
これでは、買い手側も判断できません。
👉 「書類がある」から「第三者が見ても分かる」へ。
これが売り手側の準備です。

3.「譲渡日ありき」で話を進めない

売り手側としては、
「○月末で事業を譲りたい」
という希望があるかもしれません。
しかし、
障害福祉事業では、
その日に買い手側へ運営を切り替えられるとは限りません。
厚生労働省は、吸収合併等で別法人が事業所を引き継ぐ場合、原則として引継先法人による新規申請・指定が必要としつつ、実質的に継続運営される場合には手続簡素化等の柔軟な取扱いを示しています。

売り手側も行政スケジュールを知っておく

「申請するのは買い手だから、自分には関係ない」
ではありません。
指定時期がずれれば、
売り手側の廃止時期。
譲渡日。
利用者への案内。
職員への説明。
にも影響します。
横浜市の日中活動系サービスでは、吸収合併等の場合も事前相談が必要とされ、相談後に申請、補正、本審査、指定という流れが示されています。横浜市
👉 売り手と買い手が、同じ行政スケジュールを見ながら譲渡日を決める。
ここが重要です。

4.「買い手がやること」と「売り手がやること」を分ける

事業譲渡が近づくと、
やることが一気に増えます。
そのとき危険なのが、
「それは買い手がやると思っていた」
という状態です。
引継ぎ表を一枚作る
難しいものは必要ありません。
例えば、
売り手が準備する書類。
買い手が申請する手続。
双方で確認する事項。
行政へ相談する事項。
というように、
誰が担当するのかを書き出します。
特に、
売り手側でしか出せない過去資料。
旧法人として行う必要がある手続。
については、早めに整理しておきたいところです。
👉 「誰かがやる」ではなく、「誰がやる」を決める。
これだけでも引継ぎはかなり進めやすくなります。

5.問題があるなら「隠す」のではなく「整理する」

売却を考えると、
「問題があったら売れなくなるのでは」
と不安になることもあるでしょう。
しかし、
後から判明する方が、
買い手との信頼関係を損ねます。
例えば、
未整理の変更届がある。
行政から確認を求められたことがある。
古い書類と現状が一致していない。
そうしたものがあれば、
まず事実を整理します。

完璧な事業所にする必要はない

重要なのは、
問題が一つもないことではありません。
何が問題なのか。
対応済みなのか。
これから何を直すのか。
を説明できることです。
M&A前に整理できるものは整理する。
行政確認が必要なら確認する。
買い手へ伝える必要があるものは明確にする。
👉 「問題を見せない」より、「問題を説明できる」事業所の方が引継ぎやすい。
私はそう考えます。

6.譲渡後も利用者のサービスは続く

M&Aでは、
契約
価格
譲渡日
に意識が向きがちです。
しかし、
障害福祉事業所には、
その日も利用者がいます。
「会社を渡す」のではなく「支援をつなぐ」
利用者への案内
家族への説明
相談支援事業所など関係機関との調整
新しい運営主体への情報引継ぎ
こうしたことも欠かせません。
厚労省が合併等に伴う手続について柔軟な取扱いを示している背景にも、事業所を実質的に継続して運営するという考え方があります。
👉 M&Aのゴールは、契約書に印鑑を押すことではなく、利用者への支援を途切れさせず引き継ぐこと。
売り手側にも、この視点が必要です。

譲渡を考え始めたら、まずこの3つ

全部を一度に整理する必要はありません。
まず、
① 指定関係書類を一か所に集める
② 現在の運営と届出内容が一致しているか確認する
③ 希望する譲渡時期と行政手続のスケジュールを照らす
この3つから始めてみてください。
これだけでも、
「何が整理できていて、何が分からないのか」
がかなり見えてきます。

今日の実務ワンポイント

売却・事業譲渡を考えたら、
一度、
「明日、買い手から行政関係の資料を全部見せてくださいと言われたら出せるか」
を考えてみてください。
すぐ出せるなら、
引継ぎ準備はかなり進んでいます。
逆に、
どこにあるか分からない。
最新版が分からない。
提出済みか分からない。
という書類が多ければ、
そこから整理する必要があります。

まとめ

障害福祉事業所を譲るとき、
買い手を探すことだけが準備ではありません。
売り手側でも、
現在の指定状態を確認する。
行政書類を整理する。
譲渡日と行政手続を合わせる。
誰が何をするか決める。
未整理の問題を明確にする。
そして、
利用者への支援を途切れさせない。
という準備が必要です。
👉 「売れる事業所」にするだけではなく、「きちんと引き継げる事業所」にする。
これが、障害福祉事業のM&Aで売り手側が考えておきたいことです。

今日のチェックポイント

□ 現在の指定内容を説明できる
□ 最新の行政書類が整理されている
□ 届出内容と現在の運営が一致している
□ 希望する譲渡時期と行政スケジュールを確認した
□ 売り手・買い手の役割分担を決めている
□ 未整理の行政上の問題を把握している
□ 利用者・関係機関への引継ぎを考えている
一つでも「分からない」があれば、
買い手との交渉が本格化する前に確認しておきたいところです。

行政書士田中穂積の視点

障害福祉事業所のM&Aというと、
どうしても、
「いくらで売れるか」
「買い手が見つかるか」
という話が先に来ます。
もちろん、それも重要です。
しかし行政書士の立場から見ると、
その前にもう一つ確認したいことがあります。
「この事業所は、行政上きれいに引き継げる状態になっているか」
です。
指定関係書類が整理されている。
届出と実態が合っている。
行政上の手続スケジュールが見えている。
買い手へ渡す資料が整理されている。
この状態になっていれば、
M&Aの交渉そのものも進めやすくなります。
反対に、
契約直前になって行政手続上の問題が見つかれば、
買い手との条件調整にも影響する可能性があります。
だからこそ、
「売ると決まったら行政書士」ではなく、「売ろうかと考え始めた段階で行政面を整理する」。
ここに意味があると思います。

Q&A|障害福祉事業所を譲る前に確認したいこと

Q1.買い手がまだ決まっていなくても、行政関係を整理した方がよいですか。

はい、できればそうしたいです。
むしろ買い手が決まる前に、
指定関係書類や届出状況を整理しておいた方が、
その後の確認がスムーズです。
現状を把握するだけでも、
M&A時に何が問題になりそうか見えやすくなります。

Q2.事業譲渡の行政手続は買い手側だけが行うものですか。

買い手側が新規指定等を行う場面はありますが、
売り手側にも準備・確認すべき事項があります。
例えば、
旧法人側の行政書類。
廃止等に関する手続。
過去資料の引継ぎ。
などです。
具体的な手続はM&Aの方法やサービスによって異なるため、指定権者への確認が必要です。

Q3.横浜市では、譲渡が決まってから相談すればよいですか。

サービスによって取扱いは異なりますが、横浜市の日中活動系サービスでは、吸収合併等について事前相談が必要とされています。相談後も申請、補正、本審査という手順があります。
そのため、
希望する譲渡日を確定する前に、行政上のスケジュールを確認しておく
方が安全です。

次回予告

次回は、
「障害福祉事業所のM&A|専門家選びで失敗しないための役割整理|第14話」
について考えます。
ここまで、
第12話では、
買う側が何を見るか。
第13話では、
譲る側が何を整えるか。
を見てきました。
では実際にM&Aを進めるとき、
誰に相談すればよいのでしょうか。
M&A仲介会社。
税理士・公認会計士。
弁護士。
社会保険労務士。
行政書士。
それぞれ役割が違います。
次回は、
👉 「結局、この問題は誰に相談すればいい?」
を整理します。
障害福祉事業所のM&Aを、
一人の専門家だけに任せるのではなく、
必要な専門家が、必要な場面で連携するための考え方
を見ていきます。

\ 障害福祉事業所の売却・事業譲渡を考え始めた方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
放課後等デイサービス
児童発達支援
就労継続支援B型
共同生活援助(グループホーム)
などについて、
M&A・事業譲渡を前提とした指定・届出・行政手続の整理
についてもご相談を承っています。
「まだ売却を決めたわけではない」
「買い手も決まっていない」
という段階でも、
現在の指定状況。
提出済みの変更届。
運営規程。
行政関係書類。
今後必要になりそうな手続。
を整理しておくことはできます。
👉 買い手が決まってから慌てるのではなく、事業を譲る前に行政上の現在地を整理しておく。
障害福祉事業を次の運営者へ安全につなぐための準備です。

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この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積

横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。