障害福祉事業所は今、何を見直すべき?|第11話

障害福祉事業所は今、何を見直すべき?|第11話

~改定前に確認したい5つの危険信号~

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
「なぜ障害福祉報酬は見直される?」
として、
今回の改定が単なる報酬単価の上げ下げではなく、
事業所の増加
公費の伸び
人材不足
そして、
「支援の質」
まで問われる改定になりそうだということを見てきました。
では、
自分の事業所は何を見直せばよいのでしょうか。

今回は制度の説明ではありません。
見るのは、
今の運営に出ている“危険信号”です。
次の5つのうち、
一つでも「少し気になる」と感じるものがあれば、
そこが今、見直しておきたい場所です。

危険信号1|「その加算、担当者しか分からない」

「この加算は、なぜ算定できているんですか?」
そう聞かれたとき、
「請求担当に聞かないと分かりません」
となっていないでしょうか。
加算は、
算定できている。
だけでは十分とは言えません。
確認したいのは、
なぜ算定できるのか。
どの人員が関係しているのか。
どんな支援が必要なのか。
何を記録しているのか。
どこに根拠資料があるのか。
です。
特定の職員しか説明できない状態は、
その人がいなくなった途端に分からなくなる状態
でもあります。
👉 「取っている加算」から「事業所として説明できる加算」へ
まずここを確認してみてください。

危険信号2|「あの人がいないと回らない」

サビ管
児発管
管理者
請求担当
ベテラン職員
一人の職員に、
「この人がいないと分からない」
という仕事が集まっていないでしょうか。
人員基準上は問題がない。
資格者も配置されている。
それでも、
特定の人が休んだだけで、
計画
記録
請求
会議
行政対応
が止まるのであれば、
組織としては弱い状態です。
厚労省は今回の改定論点として、人材確保だけではなく、人材の育成・専門性向上、業務負担の軽減・効率化も掲げています。
ここで見るべきなのは、
人数が足りているかではなく、仕事が組織として回っているか。
です。
👉 「人を置く」だけでなく、「その人に依存しない仕組み」を作る。
この視点が必要です。

危険信号3|記録が「あとから整えるもの」になっている

現場が忙しい
支援が続く
請求期限も来る
その結果、
記録が後回しになることはあるでしょう。
👉問題なのは、それが日常になっている場合です。
例えば、
先に請求する。
あとから記録を整える。
加算に必要だから会議記録を作る。
モニタリングの時期が来たからまとめて書く。
こうなると、
記録が
「支援を残すもの」から、「請求を説明するための書類」
へ変わってしまいます。
ここで一度、
利用者を一人だけ選んでください。
個別支援計画
日々の支援記録
モニタリング
加算関係記録
を順番に並べてみます。
そこに、一人の利用者への支援として一本の流れが見えるでしょうか。
書類一枚ずつを見るのではなく、
👉 「この利用者に、なぜこの支援をしているのか」が読めるか。
ここを確認します。

危険信号4|事業所は増えた。でも管理方法は昔のまま

利用者が増えた。
職員が増えた。
新しい事業所を開設した。
複数拠点になった。
他の事業所を引き継いだ。
事業の成長自体は悪いことではありません。
問題は、
管理体制も一緒に成長しているか
です。
例えば、
事業所ごとに書類の作り方が違う。
各管理者に加算管理を任せきっている。
本部が最新の人員配置を把握していない。
変更届を誰が出したのか分からない。
同じ法人なのに運用ルールが違う。
こうした状態になっていないでしょうか。
一拠点のときは、
経験と勘で回せた。
でも、
二拠点、三拠点になると、
それでは難しくなります。
👉 事業を増やすなら、管理の仕組みも増やす。
これができていないと、
気づかないうちに、
指定
人員
加算
記録
届出
のズレが積み重なっていきます。

危険信号5|「利用者」より「数字」が先になっている

最後が最も重要です。
稼働率
利用者数
加算
売上
人件費
もちろん、どれも経営には必要です。
事業を続けるためには、
数字を見なければなりません。
ただ、
いつの間にか、
「この利用者には、どんな支援が必要か」
より、
「この加算は取れるか」
「あと何人利用者が必要か」
「稼働率をどう上げるか」
が先になっていないでしょうか。
厚労省は今回の主な論点で、障害者本位ではないサービス提供や、十分に質が確保されていないサービスへの懸念を明示し、
必要な支援を行う事業者や質の高い支援を提供する事業者に資源が使われるよう見直す必要があるとしています。
だからこそ、
👉 「この支援は報酬になるか」の前に、「この利用者に必要か」
一度この順番に戻してみる。
これが今回の改定前に最も大切な確認かもしれません。

5つ全部を一度に直す必要はありません

ここまで読むと、
「全部確認するのは大変だ」
と思われるかもしれません。
そこで、
最初はそれぞれ一つ(合計3つ)だけ選びます。
利用者を一人
加算を一つ
職員を一人
です。
利用者一人について、
計画から支援、記録まで追ってみる。
加算一つについて、
届出から算定根拠、実際の支援まで追ってみる。
職員一人について、
資格、勤務時間、役割、研修まで追ってみる。
これだけでも、
意外なズレが見つかることがあります。
👉 全部を浅く確認するより、一つを最初から最後まで追う。
まずはここからで十分です。

今日の実務ワンポイント

事業所の中だけで確認していると、
「昔からこうしている」
「前回もこれで大丈夫だった」
「返戻されていないから問題ない」
という判断になりやすいものです。
そこで、
一度だけ視点を変えてみてください。
「今日、初めてこの事業所を見る人に説明するとしたら?」
なぜこの人員配置なのか。
なぜこの加算を算定しているのか。
なぜこの支援を行っているのか。
なぜこの記録になっているのか。
書類を見せながら説明できるでしょうか。
説明しにくいところがあれば、
そこが見直しの入口です。

まとめ

令和9年度報酬改定を前に、
今すぐ新しい制度へ対応することはできません。
まだ具体的な改定内容は決まっていないからです。
厚労省では現在、サービスごとの具体的な検討が始まっており、9月24日には訪問系サービス、
9月28日には就労系サービスを議題とする予定です。厚生労働省
しかし、
今の運営に出ている危険信号は、今から見つけることができます。
担当者しか分からない加算。
特定の職員への依存。
後追いになっている記録。
事業拡大に追いつかない管理。
利用者より数字が先になる運営。
どれも、
単なる書類の問題ではありません。
👉 事業所の運営そのものの問題です。
改定に備えるとは、
新しい報酬表を待つことではなく、
今ある弱点を、今のうちに見つけること。
そこから始めてみてはいかがでしょうか。

今日のチェックポイント

□ 加算を担当者以外も説明できる
□ 特定の職員だけに仕事が集中していない
□ 計画・支援・記録が一本につながっている
□ 事業拡大に管理体制が追いついている
□ 支援内容を利用者の必要性から説明できる
□ 「昔からこうしている」だけの運用がない
□ 第三者に見せても運営内容を説明できる
一つでも引っかかれば、
そこが今、見直しておきたい場所です。

行政書士田中穂積の視点

事業所の運営が崩れるとき、
必ずしも大きな違反から始まるとは限りません。
開業当初はきちんとできていた。
その後、
職員が入れ替わる。
利用者が増える。
加算が増える。
責任者が変わる。
二つ目の事業所ができる。
そして少しずつ、
「指定を受けたときの状態」と「今の運営」がずれていく。
私は、この小さなズレを早く見つけることが、
指定後支援ではとても重要だと考えています。
行政書士の仕事も、
変更届を出すことだけではありません。
指定内容
人員
加算
運営規程
届出
記録
を横断して見ることで、
「どこからズレ始めているのか」
を整理できる場合があります。
令和9年度報酬改定を、
単に新しい制度へ対応するイベントにするのではなく、
今の事業所を一度点検する機会にする。
その方が、正式な改定内容が出たときにも対応しやすくなるはずです。

Q&A|改定前に確認したい事業所の危険信号

Q1.人員基準を満たし、請求も通っていれば問題ありませんか。

それだけで十分とは言えません。
今回の改定では、サービスの質の確保・向上や、質の高い支援へ資源を使うことが明確な論点になっています。厚生労働省
人員基準や請求だけでなく、
実際の支援
記録
加算
管理体制
までつながっているか確認しておきたいところです。

Q2.何から点検すればよいですか。

現時点では最初から全部を見る必要はありません。
まず、
利用者一人
加算一つ
職員一人
を選び、
最初から最後まで追ってみる方法がおすすめです。
そこでズレが見つかったら、
同じような問題が他にもないか確認範囲を広げます。

Q3.改定内容が決まってから点検しても遅くないですか。

制度変更そのものへの対応は、正式な内容が示されてから行う必要があります。
一方で、
現在の人員
加算
届出
支援
記録
のズレは、今から確認できます。
先に現在地を整理しておけば、
改定内容が出たときに、
「何が変わったのか」と「もともとの問題」を分けて判断しやすくなります。

次回予告

次回は、
「障害福祉事業所を買う前に何を確認する?|M&A・事業譲渡で買い手が見るべき指定・人員・加算|第12話」
について考えます。
売上がある。
利用者もいる。
利益も出ている。
条件だけを見ると、
魅力的な事業所に見えるかもしれません。
しかし、
障害福祉事業所の価値は、
決算書だけでは分かりません。
指定はどうなっているか。
人員基準は満たされているか。
加算の根拠はあるか。
必要な届出は行われているか。
過去の請求に問題はないか。
運営規程と実態は合っているか。
こうした部分に問題があれば、
事業を引き継いだ後に初めて気づくこともあります。
次回は、
👉 「会社を買う」のではなく、「指定障害福祉事業所を引き継ぐ」とはどういうことか
という視点から、
一般的なM&Aでは見落とされやすいポイントをみてみます。

\ 障害福祉サービスの運営に「少し気になる」がある方へ /

行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
放課後等デイサービス。
児童発達支援。
就労継続支援B型。
共同生活援助(グループホーム)。
などについて、
指定後の運営に関するご相談も承っています。
「届出は出しているはず」
「加算も取れている」
「今まで特に指摘されたことはない」
それでも、
少し気になる。
そんな段階で一度整理しておくことにも意味があります。
指定
人員
加算
運営規程
届出
記録
を横断して、
今の運営と行政上の状態が合っているか
を確認していきます。
👉 問題が起きてから直すのではなく、問題になる前にズレを見つける。
令和9年度報酬改定を、そのきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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クイズ!改定前に見直したい5つの危険信号

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前回 なぜ障害福祉報酬は見直される?|急増する事業所と「支援の質」の問題|第10話
次回 障害福祉事業所を買う前に何を確認する?M&Aの話|第12話

この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積

横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。