観光施設を何か所か回れる周遊パスをつくりたい|誰が販売すればいい?|第6話

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、
「体験料と食事代をセットで売りたい」
というケースから、
複数の事業者の商品を一つにするときは、
誰が提供するのか。
誰が代金を受け取るのか。
誰がキャンセルや返金に対応するのか。
を整理することが大切だとお話ししました。
では今回は、それを地域全体へ広げてみます。
「観光施設を3か所回れるパスを作りたい」
「飲食店の特典も付けたい」
「体験施設やお土産店にも参加してもらいたい」
「スマートフォンでQRコードを見せれば使えるようにしたい」
そんな地域周遊パスです。
旅行者にとって便利ですし、
一つの観光施設だけを訪れて帰るのではなく、
地域の中を歩いてもらうきっかけにもなります。
ただ、実際に作ろうとすると、
最初にこんな問題が出てきます。
「ところで、このパスは誰の名前で売るの?」
今回の結論を先にお伝えします。
👉 周遊パスを作るなら、参加施設を集める前に「誰が販売主体になるのか」を決めましょう。
観光協会
商店街
民間会社
地域団体
旅行会社
誰が中心になる場合でも、
企画する人と、実際にお客様へ販売する人は必ずしも同じではありません。
- 1. 1.「みんなで作る」と「みんなで売る」は別です
- 2. 2.まず「1枚のパスで何ができるのか」を分解する
- 3. 3.交通や宿泊を入れるなら、一度立ち止まる
- 4. 4.「3,000円分を好きなお店で使える」は別の仕組みです
- 5. 5.販売主体を決めたら、次に「お金の流れ」を決める
- 6. 6.参加店との約束も「参加します」だけでは足りません
- 7. 7.「売る人」と「システムを作る人」も分けて考える
- 8. 8.最初に一枚の「周遊パス設計図」を作る
- 9. 今日の実務ワンポイント
- 10. まとめ
- 11. 今日のチェックポイント
- 12. 行政書士田中穂積の視点
- 13. Q&A|地域周遊パスを作りたい
- 14. 次回予告
- 15. \ 地域を回遊する観光商品をつくりたい方へ /
- 16. クイズ!地域周遊パスは誰が販売する?
1.「みんなで作る」と「みんなで売る」は別です
周遊パスというと、
「地域のみんなで作る商品」
というイメージがあります。
それ自体はよいのですが、
実際の販売では、
「みんなで売っています」
だけでは困ることがあります。
たとえば、
3,000円の周遊パスで、
A施設に入場。
B店でランチ。
C施設で体験。
ができるとします。
では、
お客様から3,000円を受け取るのは誰でしょう。
領収書を発行するのは?
A施設が休業していたら?
B店が参加を取りやめたら?
利用者から返金を求められたら?
👉 地域では共同事業でも、お客様との窓口は決めておく必要があります。
ここが周遊パスづくりのスタートです。
2.まず「1枚のパスで何ができるのか」を分解する
「周遊パス」という名前だけでは、中身は分かりません。
たとえば、
タイプA
3施設の入場券をまとめて販売する。
タイプB
施設入場+飲食+体験をセットにする。
タイプC
購入した3,000円分を複数の特典付きのお店で自由に使える。
タイプD
施設入場+バスや鉄道の乗車券を付ける。
どれも「周遊パス」と呼べそうですが、
法律上・契約上の仕組みは同じではありません。
ですから、
「周遊パスを作りたい」
から始めるのではなく、
👉 「このパスを買うと、お客様は具体的に何を受け取れるのか」
を書き出してみます。
これだけで確認すべき制度がかなり見えやすくなります。
3.交通や宿泊を入れるなら、一度立ち止まる
観光施設
飲食
体験
だけだったパスに、
「せっかくだからバスも付けよう」
「ホテルも選べるようにしよう」
となることがあります。
ここは一度立ち止まりたいところです。
旅行業法では、他人が提供する運送や宿泊について、代理・媒介・取次などを行うことが
旅行業務の中心に位置付けられています。
つまり、
施設入場
食事
体験
だけだった商品へ、
交通や宿泊を追加したことで、
確認すべき制度が変わる可能性があります。
👉 「地域のサービスを一つ足しただけ」と考えない。
何を追加したのかによって、商品全体の位置付けを改めて確認します。
4.「3,000円分を好きなお店で使える」は別の仕組みです
もう一つ注意したいのが、
回数券や入場券のセットではなく、
「3,000円で購入して、加盟店ならどこでも3,000円分使える」
という仕組みです。
これは、
「A施設+B店+C体験がセットになった商品」
とは性格が違います。
購入者が先にお金を払い、
後から加盟店で価値を使う仕組みは、
設計によっては資金決済法上の前払式支払手段に該当するかの確認が必要になる場合があります。
金融庁も、商品券、ギフト券、プリペイドカード、サーバー型の決済手段などを
前払式支払手段として整理しています。
ここで大切なのは、
「デジタルだから難しい」という話ではありません。
👉 商品券なのか、セット商品なのか、単なる割引券なのか。
仕組みによって考え方が変わるということです。
5.販売主体を決めたら、次に「お金の流れ」を決める
たとえば、
観光協会が3,000円で周遊パスを販売したとします。
購入代金3,000円は観光協会へ入る。
ではその後、
参加事業者には、
利用1件ごとに支払うのか。
月末にまとめて精算するのか。
最初から一定額を支払うのか。
売れ残りのリスクは誰が持つのか。
という問題が出てきます。
そして、
販売額3,000円のうち、
各事業者へいくら支払うのか。
事務局経費はいくらなのか。
販売手数料を設定するのか。
も決めなければなりません。
👉 「誰が売る?」を決めたら、次に「お金がどこを通る?」を書いてみる。
周遊パスでは、この二つをセットで考えます。
6.参加店との約束も「参加します」だけでは足りません
地域事業者へ、
「周遊パスを作るので参加しませんか?」
と声をかける。
そして、
「面白そうですね。参加します」
となった。
ここからもう一歩進めます。
たとえば、
パス利用者に何を提供するのか。
通常価格はいくらか。
事務局からいくら支払われるのか。
利用実績をどう確認するのか。
不正利用をどう防ぐのか。
営業時間変更や休業時はどうするのか。
途中で撤退するときはどうするのか。
いつ精算するのか。
これらを決めておきます。
参加事業者が増えるほど、
「聞いていた話と違う」
が起きやすくなります。
👉 地域連携では、人間関係が良いからこそ最初にルールを見える形にしておく。
これは非常に重要です。
7.「売る人」と「システムを作る人」も分けて考える
最近では、
紙のチケットではなく、
QRコード
Webアプリ
スマートフォン
デジタルスタンプ
などを使う周遊パスも考えられます。
観光庁も、シームレスな予約・決済やデータ連携による周遊促進を観光DXの重要な取組として掲げています。国土交通省
ただし、
システム会社が決済機能を作ってくれるからといって、
その会社が周遊パスの販売者になるとは限りません。
企画者
販売者
決済事業者
システム提供者
参加店舗
それぞれ役割が違います。
👉 「システムができた=事業の仕組みも完成した」ではありません。
システム開発に入る前に、
事業の関係図を作っておく方がよいでしょう。
8.最初に一枚の「周遊パス設計図」を作る
周遊パスを考えたら、
まず次のように一枚にまとめてみてください。
企画する人は誰?
↓
販売する人は誰?
↓
お客様は誰へ代金を払う?
↓
何のサービスを受けられる?
↓
参加事業者へ誰が精算する?
↓
キャンセル・返金・トラブルは誰が担当する?
これだけです。
法律名から入る必要はありません。
👉 まずビジネスの流れを描き、その後に必要な制度を確認する。
これまでこのシリーズでお伝えしてきた考え方が、周遊パスでは特に重要になります。
今日の実務ワンポイント
地域周遊パスを考えたら、次の5つを決めてみてください。
①誰が企画する?
②誰の名前で販売する?
③お客様のお金は誰が受け取る?
④参加事業者にはどう精算する?
⑤交通・宿泊・金券的な仕組みは含まれていない?
👉 参加店を募集する前に、この5つを一枚にする。
これが今回の実務ワンポイントです。
まとめ
「観光施設を何か所か回れる周遊パスを作りたい。誰が販売すればいい?」
今回の答えは、
👉 まず「販売主体」を一つ決め、その主体を中心にお金・契約・責任の流れを整理することです。
周遊パスには、
施設入場券のセット。
飲食・体験を含む商品。
複数店で使える金券型。
交通を含むもの。
宿泊まで組み込むもの。
さまざまな形があります。
同じ「周遊パス」という名前でも、必要な確認は変わります。
だから、
制度名から考えるのではなく、
誰が売る。
何を売る。
誰がお金を受け取る。
誰がサービスを提供する。
から考える。
観光庁も現在、地域内の予約・決済や事業者間連携を通じた周遊促進を観光DXの柱の一つとして進めています。
👉 便利なパスを作るだけでなく、地域の事業者が安心して参加できる仕組みにする。
それが長く使われる周遊パスへの第一歩です。
今日のチェックポイント
□パスで利用できるサービスを具体的に整理している
□販売主体を決めている
□代金を誰が受け取るか決めている
□参加事業者への精算方法を決めている
□休業・撤退時の扱いを考えている
□キャンセル・返金の窓口を決めている
□交通や宿泊を含める場合の旅行業法上の確認をしている
□金券・プリペイド型の場合は資金決済の仕組みも確認している
□システムを作る前に事業全体の流れを整理している
すべてにチェックが付かなくても問題ありません。
まずは、
「このパスをお客様へ売るのは誰?」
この一問から決めてみましょう。
行政書士田中穂積の視点
旅行業界で37年間仕事をしてきて、
観光地に人を呼ぶことと同じくらい重要なのが、
来ていただいた方に地域の中を回ってもらうこと
だと感じています。
一つの施設だけ訪れて帰る。
そこから、
もう一軒
もう一体験
もう一食
と地域へ広がれば、
観光消費も地域との接点も増えていきます。
その意味で、周遊パスはとても面白い仕組みです。
ただし、
参加事業者が増えるほど、
「誰がこの商品に責任を持つのか」
が見えにくくなります。
そこで行政書士として確認したいのは、
許認可だけではありません。
販売主体。
契約。
精算。
参加店との約束。
利用者への表示。
を一つの仕組みとして整理することです。
👉 観光地域づくりのアイデアを、実際に売れる仕組みに変える。
旅行業界での経験と行政書士の法務実務の両方を生かせるのは、まさにこうした場面だと考えています。
Q&A|地域周遊パスを作りたい
Q1.観光施設の入場券を何枚かセットにすると旅行業になりますか?
施設入場など、運送・宿泊以外のサービスだけで構成されているからといって、
通常それだけで旅行業になるわけではありません。
ただし、
交通
宿泊
などを組み込む場合には、旅行業法上の取扱いを別途確認する必要があります。
旅行業法では、他人が提供する運送・宿泊の代理・媒介・取次等が旅行業務として位置付けられています。
Q2.観光協会や商店街が販売主体になってもよいですか?
団体の名称だけで決まるものではありません。
何を販売するのか。
誰と利用者が契約するのか。
代金をどう受け取り、参加事業者へどう精算するのか。
によって確認事項が変わります。
👉 「観光協会だからできる」「商店街だからできない」と決めず、実際の仕組みから確認します。
Q3.QRコード型のデジタルパスなら法律の確認は少なくなりますか?
紙かデジタルかだけで判断は変わりません。
デジタル化すると予約・決済や利用実績の管理は便利になりますが、
販売主体。
サービス内容。
代金の流れ。
返金。
といった事業上の関係は残ります。
また、事前に購入した価値を複数の加盟店で使用できる仕組みなどでは、
設計によって資金決済法上の確認が必要になる場合があります。
金融庁は、商品券やプリペイド型の決済手段を前払式支払手段として規制しています。
次回予告
周遊パスでは、
「誰が売るのか」
を整理しました。
では、販売場所をもっと身近なところへ移してみましょう。
自社ホームページ
Instagram
LINE
SNSのDM
最近では、
旅行会社や予約サイトを通さず、
「自分で参加者を募集して、そのまま予約を受けたい」
という観光事業者も増えています。
そこで出てくるのが、
「予約サイトを通さなければ、自由に売っていいの?」
という疑問です。
次回は、
SNSで参加者を募集して観光体験を売りたい|予約サイトを通さなくても大丈夫?|第7話
として、
👉 「どこで売るか」ではなく、「誰が何を売っているのか」
という視点から考えます。
\ 地域を回遊する観光商品をつくりたい方へ /
行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
・地域の施設や飲食店をつないだ周遊パスを作りたい
・観光協会や商店街で地域商品を販売したい
・デジタルチケットやQRパスを導入したい
・交通や宿泊も組み込みたい
・販売主体や事業者間の契約をどう整理すればよいか分からない
といった企画段階からご相談いただけます。
旅行業界37年の経験と行政書士としての法務・許認可の視点から、
「何の許可が必要か」だけでなく、「誰が売り、誰が代金を受け取り、誰が責任を持つ仕組みにするか」
を一緒に整理します。
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クイズ!地域周遊パスは誰が販売する?
この記事を書いた人 Wrote this article
田中穂積
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。