18.日本版DBSと職員研修

~作ったルールを、現場で使える仕組みにする~

こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。

前回は、
日本版DBS対応を採用から退職まで継続するための、
運用チェックリスト
についてお話ししました。
対象者一覧表。
職員説明資料。
同意取得フロー。
個人情報管理ルール。
社内規程。
運用チェックリスト。
こうした書類を整えることで、
事業所としての対応手順が見えるようになります。
しかし、
書類や規程を作っただけでは、
現場で適切に運用されるとは限りません。
職員が、
なぜこの取組が必要なのか。
自分は何をすればよいのか。
気になる行為を見つけたとき、
誰に報告すればよいのか。
こうしたことを理解して、
初めて事業所のルールが動き始めます。

今回のテーマは、
日本版DBSと職員研修
です。
13.日本版DBS導入で職員説明資料を作るでは、
同意取得前に行う職員説明について整理しました。
今回は、
一度限りの説明ではなく、
日本版DBS対応を事業所全体に定着させるための継続的な職員研修について考えていきます。

職員説明と職員研修は役割が違います

まず整理したいのが、
「職員説明」と
「職員研修」の違いです。
第13話で取り上げた職員説明は、
日本版DBS対応を始めるに当たり、
・制度の目的
・対象となる職員
・必要な手続
・同意を求める理由
・個人情報の取扱い
などを伝えるものでした。
一方、
今回取り上げる職員研修は、
👉実際の業務の中で、職員がどのように行動するかを確認するもの
です。

例えば、
子どもとの距離の取り方。
不適切と思われる行為を見つけたときの報告。
子どもから相談を受けたときの対応。
事業所の規程や報告ルート。
個人情報を扱う際の注意点。
このような内容を、
実際の現場に合わせて確認していきます。
対象事業者には、子どもと接する業務の従事者に研修を受講させることが求められており、こども家庭庁も従事者向けの標準動画や研修資料を公表しています。

全職員に同じ研修をすればよいとは限りません

日本版DBSに関する研修は、
全職員へ同じ資料を配布して終わりではありません。
職員の役割によって、
知っておくべき内容が異なるからです。
例えば、
次のように分けて考えることができます。

子どもと接する職員
・子どもとの適切な関わり方
・不適切な行為の具体例
・気になる行為を見つけたときの報告方法
・子どもから相談を受けたときの基本姿勢
・事業所内の相談窓口

管理者や責任者
・職員から報告を受けた後の対応
・事実確認の進め方
・子どもや保護者への配慮
・関係機関との連携
・記録の作成と管理
・情報を共有する範囲

日本版DBSの担当者
・対象者一覧表の管理
・職員への説明と同意取得
・確認手続の進捗管理
・個人情報の取扱い
・規程やチェックリストの見直し
・研修実施記録の管理
役割ごとに必要な内容を分けることで、
研修時間を必要以上に長くせず、
職員にも理解してもらいやすくなります。

研修は「制度の説明」だけで終わらせない

日本版DBSの研修というと、
法律や制度の説明が中心になりがちです。
しかし、
職員が現場で知りたいのは、
👉「自分はどう行動すればよいのか」
ということです。
例えば、
放課後等デイサービスや児童発達支援事業所では、
子どもと二人きりになる場面。
送迎中の車内。
着替えや排せつの支援。
子どもとの身体的な接触。
写真や動画の撮影。
個人のスマートフォンやSNSの利用。
子どもや保護者からの相談。
こうした日常の場面で、
どこに注意すべきかを考える必要があります。
研修では、
制度の説明に加えて、
「このような場合、どう対応するか」
という具体的な事例を使うと、
自分の業務として考えやすくなります。

こども家庭庁は、事業者の担当者が演習を行う際に活用できる資料や、子どもへの聴き取り、被害を受けた疑いのある子どもへの対応などに関する資料も公開しています。

報告ルートを全職員が理解する

研修で特に重要なのが、
👉気になる行為を把握したときの報告方法
です。
職員が不適切と思われる行為に気付いても、
誰に相談すればよいか分からない。
確証がないので報告をためらう。
同僚との関係を悪くしたくない。
大事(おおごと)にしたくない。
このような理由から、
報告が遅れる可能性があります。
そのため、
事業所として、
・誰に報告するのか
・どのような方法で報告するのか
・緊急時はどうするのか
・管理者自身に関する相談は誰にするのか
・報告した職員の情報をどう守るのか
を明確にしておく必要があります。
こども家庭庁も、児童対象性暴力等や不適切な行為の疑いを把握した場合の報告ルールについて、事業者の組織体制や業務運営に合わせて、報告先、報告方法、報告内容を定めるよう示しています。
報告先を規程に書くだけではなく、
研修の中で実際に確認しておくことが大切です。

新しく採用した職員への研修

職員研修は、
既存の職員だけを対象にすればよいものではありません。
新しく採用した職員にも、
業務を始める段階で事業所のルールを伝える必要があります。
新任職員への研修では、
少なくとも次の内容を確認します。

□ 日本版DBSと子どもの安全を守る取組の目的
□ 子どもとの適切な関わり方
□ 事業所で禁止・制限している行為
□ 気になる行為を把握した場合の報告先
□ 子どもから相談を受けた場合の対応
□ 写真、動画、SNS、個人端末の取扱い
□ 個人情報の取扱い
□ 関係する規程やマニュアルの保管場所
採用時の制度説明と、
現場で働くための研修を連続して行うことで、
同じ説明を何度も繰り返すことを防げます。
また、
途中入職の職員が研修から漏れないように、
採用時チェックリストと連動させておくとよいでしょう。

一度研修を行えば終わりではありません

職員研修は、
制度の導入時に一度行えば終わりではありません。
次のような場面では、
再度の研修や確認が必要です。
・新しい職員を採用したとき
・職員の配置や業務内容が変わったとき
・社内規程や報告ルートを変更したとき
・国のガイドラインや教材が更新されたとき
・事業所内でヒヤリとする事例があったとき
・研修内容が現場で守られていないと分かったとき
大がかりな研修を毎回行う必要はありません。
例えば、
朝礼や職員会議で一つの事例を確認する。
規程の変更箇所だけを共有する。
新しく入った職員だけに追加研修を行う。
年度初めに報告先を再確認する。
このような短時間の研修を組み合わせる方法もあります。

放デイ・児発では既存の研修計画に組み込む

放課後等デイサービスや児童発達支援事業所では、
すでにさまざまな研修を行っています。
虐待防止。
身体拘束等の適正化。
感染症対策。
BCP。
安全計画。
事故防止。
個人情報保護。
日本版DBSだけのために、
新しい研修日を何度も設けると、
現場の負担が大きくなります。

そこで、
虐待防止研修の中で、
子どもとの適切な関わり方を確認する。
個人情報保護研修の中で、
日本版DBSに関する職員情報の取扱いを扱う。
年度初めの研修で、
報告ルートや担当者を確認する。
このように、
既存の研修計画へ組み込む方法があります。
ただし、
研修内容をすべて一緒にしてしまうと、
日本版DBSに関する重要な項目が埋もれてしまうことがあります。
どの研修で何を扱うのかを、
年間研修計画に記載しておくことが大切です。

研修を実施した記録を残す

研修を行った後は、
実施した事実を記録します。
研修記録には、
次のような項目を設けます。

【研修記録の項目例】

・研修名
・実施日時
・実施場所または実施方法
・研修内容
・使用した資料
・講師または説明担当者
・参加者
・欠席者
・欠席者への補講方法
・質問や意見
・今後の課題
特に注意したいのが、
欠席した職員への対応です。
研修当日に出席できなかった職員について、
資料を渡しただけなのか。
動画を視聴してもらったのか。
別日に説明したのか。
理解を確認したのか。
ここまで記録しておく必要があります。
参加者名簿だけでなく、
何を伝えたのかが分かる資料も一緒に保存しておくと、
後から研修内容を確認しやすくなります。

動画を見せるだけで研修は終わるのか

こども家庭庁が公開している標準動画や研修資料は、
研修を行ううえで有効な教材です。
しかし、
動画を視聴しただけでは、
自分の事業所では誰に報告するのか。
どの行為を禁止しているのか。
どこに規程が保管されているのか。
という事業所独自のルールまでは分かりません。
そのため、
国の教材で制度や基本事項を学ぶ。
その後に、
事業所の規程、報告ルート、相談先を確認する。
この二段階で研修を行う方法が分かりやすいでしょう。
👉共通する基本事項は国の教材で学び、事業所独自の手順は自社で補足する
この役割分担が大切です。

研修後に質問できる環境を作る

日本版DBSや子どもへの性暴力防止というテーマは、
職員にとって質問しにくい内容を含みます。
研修中には発言できなくても、
後から疑問を感じる職員もいるでしょう。
そのため、
・研修後の質問先
・匿名で相談できる方法
・管理者以外の相談先
・外部相談窓口
などを案内しておくことも大切です。
職員から質問が出ることは、
事業所のルールが不十分であるという意味ではありません。
むしろ、
現場の疑問を把握し、
規程や研修内容を見直すきっかけになります。

今日の実務ワンポイント

職員研修で大切なのは、
「研修を実施したか」
だけではありません。
誰を対象にしたのか。
どの内容を伝えたのか。
欠席者へどのように補講したのか。
職員が事業所の報告先を理解しているか。
ここまで確認することが必要です。
👉研修は、実施記録と現場の行動までをセットで考える
これが、
作ったルールを現場に定着させるためのポイントです。

まとめ

日本版DBS対応では、
規程やチェックリストを整えるだけでなく、
職員がその内容を理解していることが重要です。
13.日本版DBS導入で職員説明資料を作るでお伝えした職員説明は、
制度導入時に必要な手続や個人情報の取扱いを伝えるものでした。
今回取り上げた職員研修は、現場でどのように行動するのか。
気になる行為を把握したとき、誰に報告するのか。
子どもから相談を受けたとき、どう対応するのか。
こうした実務を確認するものです。

また、
全職員に同じ研修を行うのではなく、
子どもと接する職員。
管理者。
日本版DBSの担当者。
それぞれの役割に応じて、
必要な内容を整理することが大切です。
国の教材を活用しながら、事業所独自の規程や報告ルートを補足する。
既存の研修計画へ組み込み、新任職員や欠席者を漏らさない。
実施日時、参加者、研修内容を記録する。
こうした仕組みを整えることで、
研修が一度限りの説明ではなく、
事業所の安全管理体制として継続されます。
日本版DBS対応は、
👉一部の担当者だけが理解していればよいものではありません。
職員一人ひとりが自分の役割を理解し、
迷ったときに相談できること。
それが、
子どもの安全と職員の安心を守ることにつながります。

今日のチェックポイント

□ 職員説明と職員研修の役割を分けた
□ 職員、管理者、担当者ごとの研修内容を整理した
□ 新任職員への研修時期を決めた
□ 事業所内の報告先を研修で確認することにした
□ 研修記録と欠席者への補講方法を検討した
すべてにチェックが付かなくても、
すぐに問題があるということではありません。
まずは、
現在行っている研修の中に、
日本版DBS対応として不足している内容がないかを確認することから始めてみましょう。

行政書士田中穂積の視点

私は会社員時代、旅行業に37年間携わる中で、
多くの社員研修や業務引継ぎにも関わってきました。
そこで感じてきたのは、
マニュアル(資料や引き継ぎ書)を渡すだけでは、
業務は現場に定着しないということです。
同じ資料を使っても、
職員の経験や担当業務によって、
受け止め方は異なります。
だからこそ、
なぜこのルールがあるのか。
自分はどの場面で何をするのか。
困ったときは誰に相談するのか。
ここまで伝えることが重要です。
日本版DBS対応でも、
👉規程や研修資料を作ること自体が目的ではありません。
職員が安心して質問できること。
管理者が報告を受けたときに迷わないこと。
担当者が交代しても、同じ内容の研修を続けられること。
こうした状態を作る必要があります。
事業所ごとの職員体制や業務内容を確認しながら、
規程、研修資料、研修記録を一つの流れとして整える。
そして、
現場で使われ続ける仕組みにする。
それが、
👉行政書士としての私の役割だと考えています。

Q&A|日本版DBSと職員研修について

Q1.職員説明を行っていれば、改めて研修を行う必要はありませんか。
A 職員説明と職員研修は目的が異なります。
職員説明は、制度の目的、必要な手続、同意、個人情報の取扱いなどを伝えるものです。
職員研修では、子どもとの関わり方、気になる行為を把握した場合の報告、子どもから相談を受けた場合の対応など、現場で必要となる行動を確認します。

Q2.国が公開している動画を視聴すれば、研修として十分ですか。
A 国の標準動画や研修資料は、制度や基本的な考え方を学ぶために有効です。
ただし、自社の報告先、相談窓口、禁止事項、規程の保管場所などは、事業所ごとに異なります
国の教材を活用したうえで、事業所独自の手順を補足することが必要です。

Q3.研修記録は参加者名簿だけでよいですか。
A 参加者名簿だけでなく、実施日時、研修内容、使用した資料、説明担当者、欠席者への補講なども記録しておくとよいでしょう。
誰が参加したかだけでなく、何を伝えたのかが分かる記録にしておくことが大切です。

次回予告

次回は、
日本版DBS対応を専門家に依頼するメリット
について考えてみたいと思います。
日本版DBSへの対応では、
対象者の整理。
職員への説明。
同意取得。
個人情報管理。
社内規程。
運用チェックリスト。
職員研修。
さまざまな書類と手続を、
事業所の実際の業務に合わせてつなげる必要があります。
すべてを自社で行う場合と、
一部を専門家へ依頼する場合では、
どのような違いがあるのでしょうか。
次回は、
専門家へ依頼する業務と自社で行う業務の役割分担について
実務の視点から整理していきます。

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クイズ!日本版DBSと職員研修

読み込み中…

前回 17.日本版DBSの運用チェックリスト
次回 19.日本版DBS対応を専門家に依頼するメリット

この記事を書いた人 Wrote this article

田中穂積

田中穂積