なぜ障害福祉報酬は見直される?|第10話

~急増する事業所と「支援の質」の問題~
こんにちは。
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動している行政書士の田中穂積です。
前回は、
「令和9年度障害福祉報酬改定で何が変わる?」
として、
厚生労働省が示している6つの大きな論点を確認しました。
では、
なぜ今、これほど大きな見直しが議論されているのでしょうか。
単に、
「3年に一度の定期改定だから」
というだけではありません。
厚生労働省は、今回の改定に向けた基本的な考え方の中で、
障害者本位ではないサービス提供が相次いで明らかになっていることなどとして
「特段の知識や経験は不要」「利益をあげることができる」と、新規参入を促す例が見られること。
など十分に質が確保されていないサービスを提供する事業者も参入してきていること。
を問題として挙げています。厚生労働省
ここは、かなり重要です。
今回のポイントは、
👉 令和9年度改定は、単なる「報酬の上げ下げ」ではなく、「どのような事業所に公費を配分していくのか」が
改めて問われる改定になりそうだ
ということです。
- 1. 「事業所が増えること」と「良い支援が増えること」は同じではない
- 2. 「利益を出すこと」が悪いのではない
- 3. 「うちは不正をしていないから関係ない」で本当にいい?
- 4. 厚労省が目指しているのは「質の高い支援へ資源を使う」こと
- 5. 「取れる加算」から「説明できる加算」へ
- 6. 急成長している事業所ほど、一度立ち止まる
- 7. M&A・事業譲渡にも同じ問題がある
- 8. では、施設は今、何をすればいい?
- 9. 今日の実務ワンポイント
- 10. まとめ
- 11. 今日のチェックポイント
- 12. 行政書士田中穂積の視点
- 13. Q&A|令和9年度報酬改定を前に考えたいこと
- 14. 次回予告
- 15. \ 障害福祉サービスの運営実務を整理したい方へ /
- 16. クイズ!令和9年度改定前に見直したい事業所運営
「事業所が増えること」と「良い支援が増えること」は同じではない
障害福祉サービスの利用者が増え、
必要な地域にサービスが広がることは大切です。
一方で、
事業所が増えれば、
それだけで支援の質も高まる
とは限りません。
厚生労働省は、
十分な質が確保されていないサービスを提供する事業者も参入してきている中で、
障害福祉に係る総費用の増加や、
人材確保の難しさにも影響している
という問題意識を示しています。
つまり今回の改定では、
「事業所数が増えたか」ではなく、「必要な支援が本当に提供されているか」
という視点が、これまで以上に重くなっていると考えられます。
「利益を出すこと」が悪いのではない
ここは誤解してはいけません。
福祉事業であっても、
事業を続けるには利益が必要です。
職員へ給与を支払う。
設備を整える。
人材を育てる。
事業を継続する。
そのために、適正な利益を確保すること自体は当然です。
問題なのは、
👉「利益を出すこと」が先に来て、支援が後回しになること
です。
厚労省が問題視しているのも、
「利益が出るから参入する」
「特別な知識や経験がなくてもできる」
という発想で参入を促し、
結果として十分な質が確保されないケースが出ていることです。
👉 福祉事業は「儲けてはいけない」のではなく、「支援の質を置き去りにしてはいけない」。
ここが今回の改定を考えるうえで重要だと思います。
「うちは不正をしていないから関係ない」で本当にいい?
今回の議論を見て、
「うちは不正請求なんてしていないから大丈夫」
と思う事業所もあるかもしれません。
もちろん、
不正請求をしていないことは大前提です。
しかし、
今回の論点はそれだけではありません。
問われているのは、
不正か適法か
という二択だけではなく、
制度の趣旨に沿った支援が、本当に行われているか
です。
例えば、
加算の要件を形式的に満たすことだけが目的になっていないか。
記録が後から整えるだけのものになっていないか。
個別支援計画と実際の支援がつながっているか。
管理者が現場を把握できているか。
職員教育が十分か。
こうした点は、
「不正をしているかどうか」とは別の問題です。
厚労省が目指しているのは「質の高い支援へ資源を使う」こと
今回の「主な論点(案)」では、
必要な支援を行っていない事業者ではなく、
質の高い支援を提供する事業者に、しっかりと資源が使われるようにする見直しが必要
という趣旨が示されています。
さらに、
報酬上もサービスの質を確保・向上する取組を徹底し、
メリハリのきいた報酬体系
にしていく必要があるのではないか、とされています。
これはかなり踏み込んだ表現です。
現時点で、
どのサービスの報酬がどう変わるのか。
どの加算が増えるのか、減るのか。
は決まっていません。
しかし方向として、
👉 「指定を受けているから同じ」ではなく、「どのような支援をしているか」で評価に差をつける
という考え方が強くなっていることは意識しておきたいところです。
「取れる加算」から「説明できる加算」へ
ここで事業所側も考え方を変える必要があります。
これまでは、
「この加算は取れるか?」
という確認が中心だったかもしれません。
これからは、
「なぜ、この加算を算定しているのか説明できるか?」
まで見た方がよいでしょう。
例えば、
人員要件を満たしている。
必要な会議をした。
記録もある。
だけではなく、
その加算が、
実際の利用者支援にどうつながっているのか。
ここまで説明できる状態が理想です。
👉 請求できるから算定するのではなく、支援の実態があるから報酬につながる。
この順番を、今一度確認したいところです。
急成長している事業所ほど、一度立ち止まる
事業が伸びること自体は悪いことではありません。
利用者が増えた。
新しい事業所を開設した。
複数拠点になった。
職員数が増えた。
こうした成長は、
地域で必要とされている結果でもあります。
ただし、
事業の拡大に、
運営管理が追いついているでしょうか。
例えば、
管理者が各拠点の状況を把握できているか。
新人教育が追いついているか。
記録方法が事業所ごとにばらばらになっていないか。
加算管理が担当者だけの仕事になっていないか。
届出と実際の人員配置が合っているか。
規模が大きくなるほど、
「小さい頃は見えていたことが見えなくなる」
ことがあります。
令和9年度改定を前に、
拡大することだけでなく、
拡大した事業を適正に管理できているか
も確認したいところです。
M&A・事業譲渡にも同じ問題がある
障害福祉分野でも、
M&A。
事業譲渡。
合併。
事業承継。
を検討する場面が増えています。
M&Aそのものが問題なのではありません。
後継者がいない事業所を残す。
地域に必要なサービスを継続する。
経営基盤を強くする。
といった有効な手段にもなります。
ただし、
障害福祉事業所を引き継ぐとき、
売上。
利用者数。
利益。
だけを見て判断するのは危険です。
確認したいのは、
指定。
人員。
加算。
変更届。
請求。
運営規程。
記録。
行政とのやり取り。
です。
厚労省でも、合併・分割・事業譲渡などに伴う取扱いについて整理が進められており、
実質的に継続して運営される場合の実績の扱いなども検討されています。
つまり、
👉 障害福祉事業のM&Aでは、「会社を買う」のではなく、「指定事業所としての中身を引き継ぐ」
という視点が必要です。
このテーマは重要なので、後の回で改めて掘り下げたいと思います。
では、施設は今、何をすればいい?
ここまでが今回の一番大切なところです。
現時点で、
制度を予想して加算を変更する。
人員を増やす。
運営規程を書き換える。
必要はありません。
代わりに、
自分たちの事業所へ、
次の5つを問いかけてみてください。
1.この支援は本当に利用者のためになっているか
個別支援計画。
日々の支援。
モニタリング。
が継続してつながっているか。
2.この報酬をなぜ算定できるか説明できるか
加算の届出だけでなく、
実際の支援と根拠記録まで説明できるか。
3.この人員体制で本当に支援できているか
人数合わせではなく、
管理。
教育。
専門性。
まで機能しているか。
4.事業の成長に管理体制が追いついているか
利用者増。
職員増。
多拠点化。
M&A。
に対して、管理が属人化していないか。
5.第三者に見られても説明できる運営か
行政
利用者
家族
事業を引き継ぐ相手
誰に見られても、
「なぜこの運営なのか」
を説明できるか。
👉 この5つに自信を持って答えられない部分こそ今、早急に見直すべきところです。
今日の実務ワンポイント
一度、
「基準を満たしているか?」
という質問を、
「制度の趣旨に沿った運営を説明できるか?」
に変えてみてください。
見えるものが変わります。
人員表を見るだけではなく、
その人員で本当に支援が回っているか。
加算一覧を見るだけではなく、
その加算の根拠があるか。
記録を見るだけではなく、
利用者支援が読み取れるか。
を確認します。
👉 改定への準備は、新しい制度を当てることではなく、今の運営を第三者の目で点検することから始まります。
まとめ
令和9年度障害福祉報酬改定は、
単なる報酬単価の変更ではありません。
障害福祉サービスの拡大。
人材不足。
総費用の増加。
不適切な参入。
支援の質。
制度の持続可能性。
こうした課題が重なった中で行われる改定です。
具体的な改定内容は、まだ決まっていません。
しかし、
「必要な支援を行う事業所へ、より適切に資源を配分する」
という方向性は、今回の議論を見るうえで非常に重要です。
だからこそ今、
報酬表を見る前に、
自分たちの運営を見てみる。
👉 「指定を受けている事業所」から、「良い支援を説明できる事業所」へ。
それが今回、改定前に考えておきたいことだと考えます。
今日のチェックポイント
□ 加算の理由を説明できる
□ 記録から実際の支援が分かる
□ 人員配置が数字合わせになっていない
□ 管理者が現場を把握している
□ 職員教育が機能している
□ 拡大に管理体制が追いついている
□ 届出と現在の運営が一致している
□ 第三者に運営内容を説明できる
一つでも気になるところがあれば、
そこが今、確認しておきたい場所です。
行政書士田中穂積の視点
令和9年度報酬改定について、
「報酬が何%変わるのか」
「どの加算が増えるのか」
だけを追うのは、まだ早いと思います。
今回まず見るべきなのは、
なぜ国がこの改定を必要としているのか
です。
利用者が増える。
事業者が増える。
公費も増える。
その中で、
本当に必要なサービスを提供する事業所をどう支え、
支援の質をどう確保するのか。
ここが大きなテーマになっています。
行政書士としても、
申請書
変更届
加算届
を作るだけでは十分ではありません。
指定
人員
届出
運営規程
加算
記録
を横断して確認し、
「今の運営をきちんと説明できる状態にする」
ことを我々は支援していく必要があると考えています。
Q&A|令和9年度報酬改定を前に考えたいこと
Q1.今回の改定で報酬が下がるサービスはもう決まっていますか。
いいえ。
2026年9月30日時点では、令和9年度改定は検討中です。
厚生労働省では、8月27日に主な論点案を示した後、
9月24日に訪問系サービス、9月28日に就労系サービスについて、報酬・基準の具体的な検討が行われています。
ただし、現時点で令和9年度改定の最終的な報酬単価や加算内容が確定したわけではありません。
今後も厚生労働省の正式な資料を確認していく必要があります。
Q2.不正をしていなければ、今回の改定はあまり関係ありませんか。
そうとは言い切れません。
今回の論点では、不正の有無だけではなく、
サービスの質
支援内容
制度の趣旨
に沿った運営が重視されています。
適法に運営している事業所でも、
支援の実態を説明できるか
加算が支援とつながっているか
人員体制が機能しているか
を確認しておく意味があります。
Q3.今すぐ何をすればよいですか。
新制度を予測して変更する必要はありません。
まず、
「現在の運営を第三者へ説明できるか」
という視点で、
支援
人員
加算
届出
記録
を確認してみてください。
次回予告
次回は、
「障害福祉事業所は今、何を見直すべき?|改定前に確認したい5つの危険信号|第11話」
について考えます。
今回見てきたのは、
なぜ障害福祉報酬の見直しが必要とされているのか。
そして、
これからは単に、
「基準を満たしている」
「請求が通っている」
だけでは十分とは言えない可能性があることでした。
では、
自分の事業所は、本当に大丈夫でしょうか。
例えば、
加算のことを担当者しか分かっていない。
サビ管・児発管・管理者に業務が集中している。
記録が後追いになっている。
事業は大きくなったのに、管理方法は昔のまま。
気づけば、利用者より数字を先に見ている。
こうした状態は、
すぐに違反や不正という話ではありません。
しかし、
👉 運営が崩れ始める前に出る「危険信号」かもしれません。
次回は、
改定前の今だからこそ確認しておきたい5つの危険信号
を取り上げ、
「うちの事業所では、どこを見直すべきか」
を具体的に整理します。
\ 障害福祉サービスの運営実務を整理したい方へ /
行政書士田中穂積事務所
― 横浜の行政書士のアトリエ ― では、
放課後等デイサービス
児童発達支援
就労継続支援B型
共同生活援助(グループホーム)
などの指定後の運営についてもご相談を承っています。
令和9年度障害福祉報酬改定についても、
「今の事業所運営を一度整理しておきたい」
という段階から、
人員
加算
届出
運営規程
記録
などを確認していくことができます。
👉 改定内容が決まってから慌てるのではなく、まず現在の運営を第三者の目で見直してみませんか。
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クイズ!令和9年度改定前に見直したい事業所運営
前回 令和9年度障害福祉報酬改定で何が変わる?|今から確認したい6つの論点|第9話
次回 障害福祉事業所は今、何を見直すべき?|第11話
この記事を書いた人 Wrote this article
田中穂積
横浜市泉区・中田駅を拠点に活動する行政書士。旅行業・宿泊業を中心とした観光ビジネスや障害福祉サービスの許認可・開業支援などを行っています。旅行業界37年の経験を生かし、現場と法務の両面から実務情報を発信しています。